助言者(メンター)と助言を受ける側(メンティ)がペアになり、対話を通じてメンティの抱えるキャリアや仕事における課題や悩みの解決を図るメンタリング。このメンタリングを異なる企業間でペアを組んで行うのが「クロスメンタリング」だ。出光興産では、2023年度に東京海上日動火災保険と協同で、女性活躍推進の施策の1つとしてクロスメンタリングを実施。その成果の大きさから、2024年度にはさらに2社が加わり取り組みの輪が広がりつつある。同社でクロスメンタリングを推進する人事部人事サポート課(兼)DE&I推進課 担当マネジャーの木下薫氏に、導入のきっかけや取り組み内容、実施に当たってのポイントなどを聞いた。
相変わらず女性の登用が進まない日本社会。どうすれば日本に女性リーダーを増やすことができるのでしょうか。本特集では、リーダーとして活躍する女性自身や、女性リーダーの登用を進める企業の経営者、制度・環境づくりに取り組むキーパーソンへのインタビューを通し、女性リーダーが活躍する日本を実現するためのヒントを探ります。
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タテでもヨコでもない「ナナメ」の関係
――「クロスメンタリング」とはあまり耳慣れない言葉です。なぜクロスメンタリングを導入しようと思ったのでしょうか。
木下薫氏(以下敬称略) 話は少しさかのぼるのですが、元は私が個人で有償の社外メンターに相談をしていて、特に育児と仕事の両立に悩んでいた時期に話を聴いてもらえたことで救われた経験がありました。
その後、今度は私が副業で、社外メンターとしてメンタリングを行う機会がありました。プログラム自体はメンティとの1時間の面談を4カ月間で3回行うというシンプルなもので、「たった3回の面談でどこまで変われるんだろう」と当初は思いましたが、いざ実施してみるとメンティの意識や行動が目に見えて変化していきました。
メンティとのやりとりでは、最初は仕事の相談から入ったのですが、話を聴いていくうちに問題の本質は家庭内におけるメンティ自身のアンコンシャス・バイアスにあることが分かりました。メンターの私も過去の経験を率直に打ち明けたことで、メンティも心を開いてくれ、対話が深まっていったように思います。
上司・部下の「タテ」ではなく同僚間の「ヨコ」でもない関係にも大きな意味を感じました。例えば上司・部下の関係では、「自己開示をしましょう」と言われても、部下からすれば抵抗感を拭い切れません。上司としても「そうは言ってもこれはやってもらわないと困る」といった思いがよぎると、本来のメンターとしての役割に徹しきるのは難しいでしょう。
タテでもヨコでもない、社外という「ナナメ」の関係が、メンティの自己開示を促し、本当に解決したい課題や自分のありたい姿に気づかせる効果を高めることにつながると実感したのです。
――ご自身のメンター・メンティ双方でのメンタリングの体験が原点にあるのですね。
木下 その体験を基に社内にも働きかけ、2020年に女性活躍推進の施策の一環として、女性社員を対象にした社外メンター制度を導入しました。
その取り組みを行う中で、経済産業省から当社にクロスメンタリング(経済産業省における名称は「クロスカンパニーメンタリング」)の試行プログラムにお声掛けいただき、2022年に参加しました。
当社からはメンター役として副社長1名と、メンティ役として私を含む女性管理職社員3名が参加しました。そこで私とペアになったメンターは、他企業の部長クラスの女性でした。立場や境遇が近く、一方で利害関係がない他社の方であることから、キャリアや仕事の悩みを打ち明けやすく、ここでもクロスメンタリングならではのメリットを体感できました。