2023年3月期決算から人的資本の情報開示が義務化され、人的資本経営への取り組みの重要性がますます高まっている。各社が、人材の価値を最大に引き出す施策を模索する中、「ウェルビーイング」を大きな柱として人的資本経営を実践しているのが丸井グループだ。目指すのは、社員一人一人が創造力を最大限に発揮し、社会課題を解決する組織。同社専属産業医であり、CWO(Chief Well-being Officer)を務める小島玲子氏に、同社の「ウェルビーイング経営」の在り方と企業文化の変革について聞いた。
将来世代を含む、すべてのステークホルダーのウェルビーイングを拡大する
――丸井グループは人的資本経営の中核的な施策として「ウェルビーイング経営」を実践しています。ウェルビーイング経営が目指すものとは何でしょうか。
小島玲子氏(以下、敬称略) 私たちは、ウェルビーイングをより広く「実感としてのしあわせを表わす言葉」と捉えています。また経営の観点からは、ウェルビーイングは当社の全事業・組織にとって「Must(必須)」としました。
そして、しあわせの主体は社員だけではありません。私たちが「6ステークホルダー」と呼ぶ、お客さま、取引先、株主・投資家、地域・社会、そして将来世代、すべての人の利益としあわせを拡大することを目指しています。具体的には、2021年の中期経営計画の中でサステナビリティとともにこれを経営目的に盛り込んだものが、私たちのウェルビーイング経営です。
――ウェルビーイング経営に至るまでには、どのような経緯があったのでしょうか。
小島 丸井グループは、2009年に当期純利益で初めての赤字を計上し、2011年には最大の赤字に陥りました。流行のモノを店舗に置けば売れる時代が終わり、自ら価値を生み出すべき時代になったのに、そこに対応できていなかったのです。当社の事業における最も重要な資本は、人です。事業を存続するために、軍隊的な企業風土の変革に経営課題として取り組みました。そして、2005年から15年以上かけて、それまでの受け身的な姿勢から自ら考え行動する「手挙げの文化」を醸成してきました。
一方、人が創造力を発揮するためには、ポジティブなモードで働けることが重要です。そこで、同時にウェルビーイングを推進してきました。現在の中期経営計画を機に私もCWOに着任し、これらの価値観の社内外への浸透、さらなる企業文化の変革を中心的に担うようになりました。
――産業医として経営に携わることの意義は、どう感じていますか。
小島 私のライフミッションは「健康を通じて、働く人、組織、社会を活性化すること」です。医師、研究者として得た知識・理論を企業に実装することで、これを実現できると考えています。私は産業医、心療内科医として働く中で、働く人がしあわせな人生を送るためには、働く時間に喜びがあることが重要だと考えるようになりました。
そこで、大学院で人と組織の活性化を学び、働く人がウェルビーイングでありながら、高い成果を上げられる状態をつくる「フロー理論」を研究しました。産業医として当社に入社した後、偶然にも丸井グループ代表の青井(浩 代表取締役社長 代表執行役員 CEO)がこの理論の活用を考えていることが分かり、現在の取り組みにつながっています。