東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を「2030年までに30%以上にする」という目標を政府が掲げたものの、日本のジェンダーギャップ指数は、先進国の中で最低水準。多様な人材の活躍の場を作り、ビジネスの成長機会を生み出し、社会を活性化させることは、企業こそ担える役割ではないだろうか。
本連載では、『AERA』編集長、Business Insider Japan統括編集長を歴任し、ダイバーシティや働き方をテーマにした講演を数多く行う著者が、資生堂など先進企業の変革の取り組みを豊富な取材で描き出す。第3回は、仲井嘉浩社長の強いリーダーシップのもと誕生した積水ハウスの「イクメン休業」制度、男性育休取得率100%を達成する丸井グループの改革について紹介する。
(*)当連載は『男性中心企業の終焉』(浜田 敬子著/文藝春秋)から一部を抜粋・再編集したものです。
<連載ラインアップ>
■第1回 ジェンダーギャップ指数121位で先進国最低水準、時代遅れの日本の実態とは?
■第2回 「資生堂ショック」は女性の働き方をどう変えたのか?
■第3回 イクメン休業に女性イキイキ指数、積水ハウスと丸井は男性育休をどう進めたか(本稿)
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企業が後押しする男性育休100%
社会の性別役割分業意識を変革させるためにも、企業が働き方を変えることで果たす役割は大きい。
企業などの働き方改革に関するコンサルティングを行うワーク・ライフバランス社では、男性の育休取得率をアップさせるために、「男性育休100%宣言」に賛同する企業を募集、メルカリや大成建設、住友生命保険などの大企業のほか、三重県など行政も参加を表明、その数は2022年9月には140を超えた。
同社の小室淑恵社長は、2021年4月のセミナーでこう話している。
「男性新入社員の約8割が『子どもが生まれたときには、育休を取得したい』と回答している2017年のアンケート調査もあり、男性育休を取得できる職場には若者が集まるようになる。早い段階から男性の育休取得を後押ししていくことが企業にも求められている(5) 」
男性育休100%を掲げる企業はいくつも出始めているが、法改正前から取り組んでいるのが積水ハウスだ。
積水ハウスは2018年に男性に育児参加を促す育児休業制度「イクメン休業」をスタートさせた。対象社員には1カ月以上の育休取得を促し、最初の1カ月は有給とした。制度発足には仲井嘉浩社長の強いリーダーシップがあった。
仲井社長が男性の育休取得の必要性を感じたのは、スウェーデンへの視察だった。空き時間に公園に行ったところ、ベビーカーを押しているのがほぼ男性だったことに驚いたという。スウェーデンでは、男性が最長で3カ月間育休を取得できる。また世帯単位でなく、個人単位で課税することで女性の経済的自立を促進するなど、仕組みとしてジェンダー格差を埋めていることに着想を得たという。
仲井社長はインタビューでこう述べている。
「(男性育休によって)経済的にメリットを得られるのが理想ではありますが、正直難しい部分もあるため、経済効果に関してはあえて言わないようにしているんです。日本経済へのメリットを意識するというよりも、積水ハウスの社員に、育児を通じた人間的な成長であるとか、家庭内での幸せを築いてもらいたいというのが一番(6) 」
積水ハウスのようにトップが主導して進めている制度であっても、職場内の調整や上司の理解を得ることは難しいという。ただ、男性育休制度の前から女性のキャリアアップ支援なども実施していることもあり、新卒社員の離職率が入社3年で約3割が退職する傾向があると言われる中、積水ハウスでは離職率が改善、今では1割ほどになるなど、トップ主導の働き方改革は若手のモチベーションにつながっている。