解消しなければならない課題は「オーバーコスト」

 だが、完全キープコンセプトの第3世代も同じように顧客の支持を集められることが約束されているかという点については話が別である。実際にどういう仕立てになっているかは実車をロードテストしてみないとわからないが、第2世代は難しい課題を抱えており、その解消は容易ではないと予想されるからだ。

 その課題とはオーバーコスト。第2世代は性能や商品性でライバルを引き離し、軽自動車市場で一気呵成に覇権を握るという先々代社長の伊東孝紳氏のストラテジーのもとに作られた。それを実現させるため、車体の組み立てには構造接着剤の中でも固着性と柔軟性を併せ持つことで知られる高粘性ボンドが使われ、足まわりの部品も高容量のものにするなど、お金がかかっている。

 その結果はどうだったか。N-BOXについては確かにその商品性が支持され、一気呵成に乗用車の総合首位を取るほどの成功を収めた。だが、N-BOXと並ぶ重要な量販モデルで同じプラットフォームを使う「N-WGN」は販売台数を落とした。人気がN-BOXに偏っただけで、トータルの台数を増やすことはできず、コストを吸収するのには失敗したのである。

 第3世代の開発においては、コスト構造の見直しが大きなテーマになっていることは想像に難くない。しかし、コスト配分をうまくあんばいするというのは非常に難しいもので、コストダウンに失敗すると商品力が大きく損なわれることも珍しくない。

第3世代N-BOXカスタムのヘッドランプ点灯時。多灯式LED

 ホンダは過去、軽自動車で痛い目もみている。2003年に発売した乗用モデル「ライフ」はライバルに「軽自動車でも価格だけでなく走りや快適性が競争領域たり得るという認識を持つきっかけになった」(ダイハツ関係者)と言わしめるなど、軽自動車の歴史の中でエポックメイキングなモデルとなった。

 だが、このライフもホンダが賭けに出るためにコストを惜しまず作ったため、利益が出せないという悩みがあった。その問題を解決すべく、2008年にコストを抑えたモデルチェンジを行ったところ顧客が一気に離れてしまい、2011年の第1世代N-BOXまでホンダの軽自動車は不遇をかこつことになった。

 コストは落とさなければいけない、しかし商品力は落としてはいけない──伝統的に適切なコストダウンが下手なホンダにとって、第3世代N-BOX作りはヒットが続かないことと並び、まさに苦手へのチャレンジでもあるのだ。もっとも、ライバルがオフロード風モデルやイカツイ顔で顧客の支持を集めているのに対してホンダはまだその領域には手を出していないなど、余裕を残している部分もある。

 果たして新N-BOXがホンダの軽ビジネスを新たなステージに押し上げるのか、それともN-BOXをたっぷりと研究して対策を打ってくるであろうライバルメーカーのチャレンジの中で埋没していくのか。軽ハイルーフワゴン市場を舞台とした熱き戦いから目が離せそうにない。

第3世代N-BOXのフロントビュー