(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)
高いパフォーマンスを発揮する「低車高モデル」の優位点
日本の乗用車マーケットにおける主流商品は軽自動車、サブコンパクトカー、ミニバン、そして最近はSUV。その陰でかつての主役だった低車高のセダン、ハッチバックモデルは減る一方だ。
今年4月にトヨタ自動車が「カムリ」の国内販売終了を発表したのは象徴的だった。その下のコンパクトクラスもトヨタ「カローラスポーツ」、マツダ「MAZDA3」など全高1500mmを切る低車高モデルの販売は軒並み苦戦を強いられており、ほとんどが月平均1000台のラインをクリアできていない状況だ。低車高モデルが多くの顧客の購入リストから外れているのはもはや明白である。
だが、低車高モデルは本当に存在意義を失ってしまったのだろうか。たしかに室内の広さや眺望の良さという点については背が低いクルマは当然不利だ。が、少ない資源、少ないエネルギーで高いパフォーマンスを発揮するという点では絶対優位である。
前面投影面積(正面から見たときの空気を受ける面積)が小さく空気抵抗が少ない。背丈が低いためクルマを作るのに必要な鉄や軽合金の絶対量が少なく、車体を軽くすることができる。そして背が低いためクルマの運動性能を左右する重要な要素である車体の重心は必然的に低くなる。
ミニバンやSUVも技術革新で性能はどんどん高くなっているが、同じ水準の技術を投入する場合、低車高モデルのほうが物理的に低コスト、低環境負荷、高性能になる。これはクルマの動力が内燃機関だろうが電気だろうが変わらない。
消費トレンドからは外れているが、クルマの素性としてはより優れたものを持っている低車高モデル。その一角であるホンダの全高1400mm台のコンパクトクラス「シビック」で長距離ドライブを試してみた。