日本の乗用車市場で最も売れる「軽スーパーハイトワゴン」
ホンダは自動車業界の中でも「一発屋」の傾向が色濃いメーカーで、せっかくヒット作を生んでも世代交代でダメにしてしまうケースが多い。
日本市場において過去に3代続けてスマッシュヒットを飛ばすことができたのは、3代目「ワンダー」、4代目「グランド」、5代目「スポーツ」というニックネームがつけられた「シビック」だけである。この時代はフルモデルチェンジが4年ごとに行われていたので、現代では2世代ぶんの期間でしかない。ホンダにとって3代目はまさに“鬼門”なのだ。果たしてN-BOXはそのジンクスを打ち破ることができるのだろうか。
それを考えるうえで重要なのは、普通車を含めた総合ランキングで首位に立っている現行第2世代がなぜ支持を集められたのかという分析だ。モデルライフ末期の今、N-BOXカスタムで4200kmほど長距離ロードテストを行い、その理由を探ってみた。
N-BOXの話に入る前に、軽ハイルーフワゴン、あるいはスーパーハイトワゴンと呼ばれる全高170cmオーバーの軽自動車マーケットについて簡単に述べておきたい。このカテゴリーを開拓したモデルは20年前の2003年にダイハツ工業が発売した「タント」で、歴史は比較的浅い。
第1世代タントをリリースした当時、ダイハツは石橋を叩いても渡らないと言われる手堅さの一方で大阪企業らしいノリの良さ、遊び好きの面も併せ持つという社風がまだ残っており、タントも売れると読み切っての投入ではなかった。関係者自身が「こんなに背を高くして実際問題、売れますかね。月販5000台目標はちょっと盛りすぎだったかも」などと笑いながら語っていたほどである。
しかし、いざ売り出してみたところ、日本の道路事情やユーザーのライフスタイルへの適合性が非常に高かったことから好評を博し、販売台数は目標の月5000台どころではなかった。まさに“ひょうたんから駒”的な成功で、不意を突かれたライバルはすぐに競合モデルを用意できず、スズキが対抗馬「パレット」を出したのは実に5年後の2008年のことだった。
2011年にホンダ・N-BOX、2014年に日産自動車「デイズルークス」/三菱自動車「eKスペース」と役者が揃うにしたがって市場のパイそのものが膨らみ、今では2022年実績で50万台超と、日本の乗用車市場の中で最も多くの台数が売れるカテゴリーとなった。
クルマを語るうえで、そんな最大ボリュームのモデルをスルーするわけにはいかないということで、筆者はスズキ「スペーシアカスタム」、ダイハツ「ムーヴ」、日産自動車「ルークスハイウェイスター」と、現行の主要モデルのオーバー3000kmドライブを試してきた。今回のN-BOXカスタムの長距離試乗はその中締めのようなものである。