全期間固定金利型の「フラット35」(写真はイメージ)

 住宅金融支援機構が民間機関と提携して実施している住宅ローンの「フラット35」。完済までの金利が確定している全期間固定金利型で、金利上昇による返済額の増額リスクがないので安心して利用できる。今年の夏以降、金利上昇の懸念が強まっている中、全期間固定金利型のローンへの注目度はますます高まりそうだが、その機に乗じて、不正利用が増える可能性があるという。住宅ジャーナリストの山下和之氏がレポートする。

投資用ローンに比べて格段に低い金利が不正の温床に

 フラット35は、国民が自分自身や肉親などが住むための良質な住宅を取得するために実施されている住宅ローンであり、賃貸住宅の購入など投資用不動産には利用できない。

 取得後は自分で住まなければならず、何年かのちに転勤などで住まなくなった場合、いずれ帰ってきてまた住むのであれば所定の手続きをとれば転勤中は賃貸にも出せるが、再び住む見通しがないときには、フラット35はいったん一括返済して、民間ローンなどに借り換える必要がある。賃貸に出したままフラット35を利用していれば不正利用になる。

 投資用には利用できないのに、中には悪質な業者がいて、狡猾な手段を用いて消費者を騙し、フラット35の不正利用を勧めるケースが後を絶たない。そんな手口に乗せられてしまうと、不正が発覚して融資金の一括返済を求められ、最悪の場合、不動産を失ったうえに、負債だけが残ってしまうという悲惨な結果に陥りかねないので注意が必要だ。

 なぜ、不正が絶えないのか、それにはいくつか理由が挙げられる。

 何より、不動産投資用のローンに比べて、フラット35の金利は格段に低いことがある。通常、不動産投資用ローンは2.5%~4.5%程度の金利だが、フラット35は自己居住用のローンとして1%台で融資されている。これを利用して不動産投資を行えば、返済額が少なくて済むので利回りが高くなり、投資としての魅力が高まる。

 たとえば、5000万円の物件を自己資金ゼロ、5000万円のローンを組んで取得する場合、不動産投資用ローンで金利4%、35年元利均等・ボーナス返済なしで利用すると、毎月返済額は22万1387円だが、金利1.86%のフラット35を利用できれば、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は16万2061円に減少する。

 この物件で賃料20万円を得ることができれば、4%のローンだと2万円以上の持ち出しになるが、1.86%の金利ならローン返済を行っても、毎月3万円近い収入が入ってくることになる。自己資金が1割以上あれば、金利は1.72%に下がるが、自己資金ゼロでも1.86%で利用できるので、十分にメリットがあるというわけだ。

 しかし、取得後にこうした不正が発覚すると、住宅金融支援機構からその時点のフラット35の残高の一括返済を求められる。その際、ローン返済開始後2、3年しか経っていないと、残高はほとんど減っていないので、売却手数料などを考慮しても5000万円以上で売れないと赤字になってしまうだろう。