新海誠監督ら新たな才能が台頭
映画を見る限りでは、「最後の長編映画」という気負いはない。たとえば『もののけ姫』や『風立ちぬ』のほうが、これまでと違うことへの挑戦があふれていた。最後の一本にふさわしい、迫力に満ちていた。
『君たちはどう生きるか』からは、宮崎駿監督の変わらぬアニメづくりへの情熱が一番に伝わってくる。それが、これからもアニメをつくり続けるに違いないと思わせる。少なくとも本人のなかでは、これで終わりという気持ちはないだろう。
もちろん82歳という高齢と、『君たちはどう生きるか』の制作に7年間もかかったことを考えれば、さらに長編映画をつくるというのは大きな仕事かもしれない。それでも今回は宮崎駿監督の引退といったものはなく、今後も何かしらの創作を続けるに違いないと思わせる。
ただ宮崎駿監督の意志とは別に、スタジオジブリがどのようにアニメ制作を続けるのかという問題はある。『君たちはどう生きるか』では数十億円に及ぶ制作費を単独で出資したが、今後もこうしたリスクの高い大勝負に出られるかは分からない。
実際、『風立ちぬ』から10年、アニメや映画を取り巻く環境は大きく変っている。たとえばヒットする映画のタイプだ。
10年前には興行収入で100億円を突破できる邦画アニメは宮崎駿監督作品だけで、スタジオジブリこそが大ヒットを約束するアニメ制作スタジオだった。

ところが2016年に『君の名は。』で新海誠監督がそれを軽々と突破し、続く『天気の子』、『すずめの戸締り』でも100億円超えを実現する。さらに『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『ONE PIECE FILM RED』、『劇場版 呪術廻戦 0』、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』などのヒットが続く。なかでも『名探偵コナン 黒鉄の魚影』に代表されるシリーズ作品が知名度を軸に大量動員できるようになったのは大きな変化だ。
もはや邦画アニメのメガヒットは、スタジオジブリだけに約束されたものでない。日本アニメ界の「ジブリ1強」時代は終焉したのである。
もちろん、それはスタジオジブリ側も十分意識したはずだ。だからこそ、今回の宣伝をしない戦略というのも生まれる。スタジオジブリ作品は、他の映画では違うのだという特別感をアピールする。