(姫路大学特任教授:平野秀樹)
2023年7月――。
「よくぞここまで…」
「もう中国に農地を買わせないと農水省が踏み込んだ」
本年9月から、農地を新たに取得する個人や法人に対し、農水省が国籍の報告を義務付ける方針であると伝えられると、右系に近いメディアでは鬼の首でもとったかのように歓迎した。よいことではあるが、はしゃぎすぎである。外資による農地買収の勢いはそれでも止まらないからだ。
以下、新刊拙著『サイレント国土買収』(角川新書)の内容をもとに、農地買収の未来を占ってみよう。
グローバル荘園
ニュージーランド――。
オークランド郊外に農場がある。畑で耕作し、羊の群れを追う労働者がいる。アフリカの人たちだ。農場と牧場を経営するのは中国人である。もちろん土地所有権も持つ。ニュージーランドの国土を使って、中国人が事業を営み、アフリカ人がそこで雇用されている……。そこで産み出された農産物、乳製品、畜産物は、中国本国へ運ばれていく。生産物ばかりでなく、そこで得られた利潤(果実)もまた、中国へ吸い上げられていく構図だ。
領主と使用人、地主と小作、網元と漁師。そういった支配的、隷属的な関係が、働き手たちの祖国から遠く離れた国ではじめられている。
グローバル化された国土のすがたの一つで、移民が増え、社会基盤の多くを支えていくようになると、多かれ少なかれ、各国でこういう姿が見られるようになる。