7月19日、ロシア支配下のウクライナ・ドネツク地方の農場では小麦の収穫が行われていた(写真:ロイター/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 黒海の穀物輸送の合意について、ロシアが「停止する」と発表したのは、17日のことだった。この合意は、ウクライナへの軍事侵攻によってロシアが閉鎖した黒海で、穀物を輸送する船だけはウクライナの港を出入りできるようにしたもので、トルコと国連を含めた4者で昨年7月に成立していた。

 17日に期限がくるその合意の期間延長にロシアは反対。そのためウクライナ産穀物輸出に関するこの合意の効力が翌18日から停止することとなった。

 たちまち世界の小麦相場が上昇している。食料価格の高騰は世界的な食料危機を招く。

「合意延長反対」だけでウクライナを締め上げ欧米諸国を恫喝

 ロシアは「第3の武器」と呼ばれる食料を使って、世界を揺さぶっている。世界を混乱させることによって、欧米諸国の制裁の緩和を求めているとみられる。裏を返せば、それだけロシアが追い詰められているとも言えるが、食料供給国として近年台頭していたウクライナ産穀物の輸送ルートを断つことで、「第3の武器」としての食料の利用価値はロシアにとっててきめんだった。

 もともと食料を「第3の武器」と見立てたのは、1970年代の米国CIA(中央情報局)だった。オイルショックを経験し、当時は寒冷化の傾向にあって農作物の不作が続いたソ連を念頭に、通常の火力兵器(weapon)を「第1の武器」とするならば、石油・エネルギー資源は「第2の武器」、そして飢餓によって人間の生命を左右する食料を「第3の武器」とするレポートをまとめている。