このアプローチの良い点は、原理から明瞭であること。
惜しい点は実用とは距離があることで、超高圧下で小さなサンプルが室温超伝導を示しても、それで直ちに病院にあるMRIが常時用いている超伝導磁石に転用できるというわけではない。
こうしたことも、「水深2キロ、3キロで潜航艇爆縮」と同様、何が起きているか、必要十分な基礎科学を理解していれば、瞬間的に大方の判断は誤らずに下すことができます。
かつ、逆立ちしても今のLLM(大規模言語モデル程度の生成AI)では、このような芸当はできません。
本稿のおしまいに、潜航艇タイタンに関してですが、
賢い子なら小学生が聞いても「何言ってるの?」
今回、タイタンに乗船して命を失った人たちは、「死」
みすみす死ぬと分かっていたら、そんな船には乗る人はいない。
「こういう書類は書かせるものの、
「怖がっていても仕方ない。ここはいちか、ばちかだ!(
19歳で命を失った少年には、ひょっとするとお父さんと一緒に「
でも、もしそうであったなら、
「海底観光はビジネスチャンス」というアイデアに取りつかれ、
注意深い読者にはご理解いただけたと思いますが、前回も記した通り、深海では周囲の海水に圧迫される圧縮強度が問われ、強さをきちんと評価していない円筒形の断面側から水圧で押しつぶされて、タイタンはやばい音をたて、最終的に破断したと思われます。
翻って、ジェット旅客機が飛ぶ環境は飛行高度にして10キロ程度、気圧は0.2~0.3気圧程度、マイナス30~50度という空間で、機内の常圧の方が高くなっている。
当然ながら航空材料のスペックは「引張強度」で問われ、深海で問題になる圧縮強度の評価は一般に問われません。
オーシャンゲートは、そこで問われる材料強度をきちんと評価せずにタイタンを設計、就航させていた可能性が高い。だから事件というべきだと思うわけです。
なお細かいことですが、引張強度と圧縮強度の間には、この資料などにもあるようにほぼ同等の値が比定されるようですが、インパクトを受けるような場合、横弾性係数に依存する圧縮強度が産出され、簡単ではありません。
そこで百歩譲って、ボーイング社が放出した「使用期限切れ」のジェット機材料で潜航艇を造るとして、当該材料のそうした材料強度をシリアスに検討したうえでタイタンは設計されただろうか?
およそそうは思えない。
むしろ真剣に考えれば、高水圧下の環境に異方性材料を持ち込むのが、そもそもの間違いと言わざるをえません。
ジェームズ・キャメロンなど、
見通しの甘い人たちが契約、高額なお金を支払って、
そう考えると、ラッシュCEOが潜航艇と運命を共にしたことも、
つまり、彼はCEOでありながら、
生半可な理工学の知識と、新自由主義期に典型的だった、
「究極の無責任」と遺族が見ても、全く不思議ではないでしょう。
末尾、やや説教臭くなりますが、特に若い人は自然界を記述する基礎科学に興味を持っていただきたい。
自らの知的好奇心をもって、「タイタン潜航艇遭難」のような時事から「室温超伝導」の現実まで、AIには真似のできない瞬時の洞察で、世界を見抜く眼力を養ってほしいと切実に願っています。