高圧の下でいったい何が起こるのか?

 話を潜航艇タイタン挫滅に戻しましょう。

 タイタン事故の直後「残りの酸素ボンベは何時間分」みたいなミステリー仕立てで、日本の民放が番組を放映していたことをテレビを見ない私は全く知りませんでした。

 またそこに登場する専門家を称する人たちの中には、常識的な物理の観点から見ておよそ奇々怪々な諸説を弄する人もあり呆れました。

 間違いとまでは言わなくても、ちょっとそれは違うという例から始めましょう。

 例えば、300気圧というのは、小指の先ほどの面積に相撲取りが2人ほど乗って300キロからの重さが集中するのと同じ程度といった説明を、ご丁寧にテレビパターンつきで怪説しているものを見かけました。

 これは、ミスリーディング、誤解を招きます。

 指先に300キロが集中したら、痛そうでは済まないでしょう。仮に電車の車両が重みをかけたら、発生する事態は圧縮ではなく轢断、指が切れてしまうでしょう。

 しかしそれは、周りが1気圧の常圧で、そちらに逃げ場がある状況でのお話です。

 海中は、前後左右上下の6方向すべて水で、あらゆる方向から相撲取り2人分が押しつぶしてくるわけで、状況は全く異なります。

 ところがそれを示すと称して、カップ麺容器を深海底に沈める演示を見せるテレビ番組を見かけたのですが、これも別の意味でミスリーディングです。

 というのは、発泡スチロール製のカップ麺容器は空気を圧縮しますから縮んでいくのがよく見えます。

 しかし人間を100気圧の条件下に置いても、カップヌードルのような縮み方はしません。というのも、人間の組成は大半が水です。