令和5年富士総合火力演習(陸上自衛隊のサイトより)

 銃を取り扱う自衛隊において、自衛官候補生が射場にいた上司隊員を射殺するという、あってはならない悍ましい事件が起きた。

 陸上自衛隊の最上位にある陸上幕僚長は陸自内に調査委員会を設けて原因究明を行うとしている。

 隊内や警察の取り調べは、自衛官候補生(家族を含む)の普段の教育訓練における在りよう、候補生に対する隊内教育の実情、当日の銃・弾の取り扱い方や実弾射撃に至る流れの適切性などが調査の重点となろう。

 すなわち、陸自、せいぜい広めても自衛隊全体における組織運営をはじめとする報告にとどまり、自衛隊・防衛省を超えることはできない。

 しかし、事案の背景には国家的な隊員募集の在り方をはじめ、憲法と自衛隊・安全保障問題、学校教育、キャリアの人事配置などがあると思考する。

 再度強調するが、事件(事案)の真相はいまだ不明であり、事件と候補生を直接論ずるものではなく、背後により大きな問題があるとみる視点からの考察である。

予算不足で改悪された制度

 この制度(自衛官候補生)は限られた予算でいかに良質の隊員を集めるかという窮余の一策で、候補生という身分で募集して自衛官への適格性を判定して採用の可否を決するというものである。

 一見もっともなように思えるが、民間の企業に対比してみれば、そのカラクリがより鮮明に理解できよう。

 企業などが新しく人員を採用する場合に当てはめれば次のようになる。

 これまでは新入社員として処遇してきたが、今回からは当初の3か月間は会社の概要理解や見習い的なことが多く、実働要員ではないため給料は社員よりも少ない準社員扱いとする。そのうえで、再度社員としての適格性が判定される――。

 従来の任期制自衛官(陸自2年、海・空自3年)として採用し、当初の3か月間は「新隊員教育期間」に充てていたものを、新隊員教育期間は「正規」の自衛官でない「候補生」として処遇する。

 これによって予算の節減に繋がるとされる。従って最初の任期は候補生期間を除いた1年9か月または2年9か月となる。