- 欧州連合はグローバルゲートウェイ構想に基づき、世界有数のリチウム生産国であるチリのリチウム産業を支援すると発表した。
- リチウムの安定的な調達経路を確保するとともに、チリのリチウム産業のグリーン化を進めるという狙いがある。
- もっとも、鉱物採掘には環境破壊などの悪影響を伴う。EUはそういった環境コストをどの程度負担する覚悟があるのだろうか。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
圧倒的な埋没量を誇るチリのリチウム
6月14日、欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と、南米チリのガブリエル・ボリッチ大統領は、チリの首都サンチャゴで共同記者会見に臨んだ。その際、フォンデアライエン委員長は、いわゆる「グローバル・ゲートウェイ」構想に基づき、チリに対して多額の投資を行うと発表した。
グローバル・ゲートウェイ構想とは、EUが2021年から27年までの7年間に3000億ユーロ(約45兆円)の資金枠を設けて、途上国の脱炭素化やデジタル化をサポートするというものである。中国の「一帯一路」構想に対抗して設けられた性格が強く、いわばEU版の「一帯一路」構想と称しても差し支えない構想だ。
この3000億ユーロの資金枠のうち、EUはアフリカ向けに1500億ユーロを、チリを含む中南米向けに1000億ユーロを、それぞれ割り当てている。EUの資料によると、リチウムと銅に関するバリューチェーンの構築と水素エネルギーの開発、再エネの普及と効率化が、2023年における重点的なチリ支援の対象と定められている。
ここで注目されたのが、リチウムに関するバリューチェーンの構築を支援するプロジェクトだ。つまるところ、これはEUがチリでのリチウム採掘を支援するということを意味する。当然、支援を受けたチリは、リチウムをEUに対して優先的に供給することになる。そのリチウムは、近年、蓄電池の原料として重要度を増している鉱物である。
チリは世界有数のリチウム生産国だ。米地質調査所(USGS)によると、2022年時点の世界のリチウム生産量は13万トンだった。そのうちチリの生産量は、豪州(6.1万トン)に次ぐ3.9万トンの生産を誇り、全体の30.0%を占めている(図表1)。さらに、世界のリチウム埋蔵量の圧倒的な部分が、チリにあるとされている。
【図表 世界のリチウム生産量と埋蔵量】