(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ロシアによるウクライナ侵攻の長期化を受け、ヨーロッパではウクライナに対する「支援疲れ」が広がっている。それはウクライナ支援の最前線にあり、同国と国境を接するポーランドでも同様だ。歴史的な経緯もあり、ポーランドはウクライナに強い連帯感を抱き、同国からの避難民を大々的に受け入れ支援してきた。だが、風向きが変わってきたようだ。
ポーランド政府は4月15日、ハンガリーとスロバキアとともに、ウクライナ産の農作物の輸入を一時的に禁止すると発表した。具体的には、穀物、乳製品、砂糖、果物、野菜、肉類の輸入を6月末まで禁止すると発表したのである。結局、欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会の批判を受けて、ポーランドはこの措置を21日に解除した。
EUの通商政策は、いわゆるEUの排他的権限に属し、原則としてEUレベルでの政策決定のみが容認される。そのため、欧州委員会はポーランドなどによるウクライナ産の農作物の禁輸措置を批判したわけだが、ポーランドだけでなく、ブルガリアやルーマニアもウクライナ産農作物の禁輸措置を検討しているという事実がある。
それではなぜ、中東欧諸国でウクライナ産の農作物の禁輸措置が検討されるに至ったのか。その主因は、EUの通商政策が中東欧諸国の農作物価格を急落させたことにある。その通商政策とは、EUがウクライナを支援すべく、同国産の農作物を無関税で輸入するとともに、EUを通じて第三国に輸出することを奨励するという内容のものだ。
周知のように、ウクライナ産の農作物は、ロシアとの戦争を受けて、黒海からの輸出が困難になった。この状況に鑑み、EUはウクライナを支援すべく、同国産の農作物の輸入の強化と再輸出の奨励を図ったわけだ。しかしながら、その結果、中東欧諸国にウクライナ産の農作物が大量に流れ込み、農作物の価格が急落する事態となったのである。
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