ロシアによるウクライナ侵攻の後、親露的な国々への資金流入は減少している(写真:ロイター/アフロ)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

資産価格の検討にも地経学が重要な時代に

 前回コラム『貧しくなる世界にIMFが警告、本格化する「スローバリゼーション」の時代とは サプライチェーンの再構築によって生ずるコストに世界は耐えられるのか?』では、国際通貨基金(IMF)が公表した春季世界経済見通し(World Economic Outlook:WEO)において、地経学的な分断(geoeconmic fragmentation)が集中的に議論されていることを取り上げた。

 とりわけ世界的に直接投資の流れが逆流していること、具体的には自国回帰や友好国回帰の潮流が根付いているという事実が定量的・定性的に議論されていた。WEOでは、こうしたグローバリゼーションの巻き戻しを指して「スローバリゼーション」と表現していたことが印象的であった。

 WEOの翌日に発表されたIMFの「国際金融安定報告(Global Financial Stability Report:GFSR)」でも、第3章で「Geopolitics and Financial Fragmentation: Implications for Macro-Financial Stability」と題して類似の論点が議論されているので、今回の本欄ではこれを紹介してみたい。

 GFSRの第3章は、導入部分から「世界経済の重しとなる地経学的のさらなる分断 戦略的考慮に基づいた経済・金融統合の政策的巻き戻し」に言及して始まる。

 これまでは地理的な条件を念頭に置いた上で、軍事・外交を中心とする国家関係を分析・考察する学問として地政学があった。その考え方は今も当然有用なものだが、近年では地政学的な目的を実現するために経済的な手段を活用することも含めて検討する学問として地経学(geoeconomics)のフレーズが多用されている。

 世界各国における軍事費が膨張傾向にある状況下、地政学的な緊張は明確に高まっており、結果として地経学の思考枠組みも出番が多くなっている。図表①に示すように、各国の経済規模(名目GDP)に対する軍事費は2020年以降で顕著に膨らんでおり、世界の半分の国で軍事費が増える兆候が見られる。

【図表①】


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