障がい者サポーター支援のキャンペーンを展開する英レスター・シティFCの選手たち(レスター・シティFC提供)

サッカーJリーグが30周年を迎えた。この間、世の中は大きく変わった。企業の社会的責任が注目され、「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)」が重要なキーワードになった。Jリーグもこの潮流に乗ってきた。6つある活動方針の1つに障がいのある人も一緒に楽しめるスポーツのシステムをつくる、としてインクルージョンを念頭においている。

スタジアムのアクセシビリティ(使いやすさ)を高め、全てのファンが等しく試合を楽しめるようにする取り組みは今、サッカーの本場欧州でも重視されている。スタジアムにおけるアクセシビリティは、どこまで進化できるのか。連載2回目は、英プレミアリーグのレスター・シティFCの事例を詳報する。レスターは5月28日の試合で10シーズンぶりの2部降格が確定したが、アクセシビリティの対応ではプレミアリーグ内で抜きん出ていた。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 4月22日、レスターの本拠地「キング・パワー・スタジアム」で開催された対ウォルヴァーハンプトン戦。選手らは車いすや耳、目などのイラストが描かれたロゴ入りTシャツを身につけてウォームアップに挑んだ。

 この日の試合は「ディスアビリティ・マターズ・キャンペーン」の一環。障がいのあるサポーターでつくる団体「レスター・シティDSA」(前稿参照Jリーグ30周年、英プレミアリーグで見た障がい者が熱狂できるスタジアム」)を前面に打ち出すなど、試合前にクラブをあげて障がいについて考え、共有するひとときを設けた。このイベントは、昨年末急逝したレスターDSAの前会長が長い間思い描いていたものだという。

 レスターの取材を進める中で驚いたのは、障がいのあるサポーターへのきめ細やかな支援があらゆる面で徹底していることだ。まずウェブサイトを訪れてハッとした。音読や文字の拡大、背景色の変更が自由にできる機能などがワンクリックで現れ、視覚・聴覚障がいや学習障がいなどのあるユーザーへの配慮が行き届いている。移民大国の英国らしく、多言語にも対応している。(レスターのアクセシビリティに関する公式ページでは「Enable Recite」をクリックすると誰にでも使いやすい機能が現れる)

 現在のキング・パワー・スタジアムに移転したのは2002年。この時点で既に186の車いす席があり、スタジアムの収容人数に応じて奨励される車いす席数を満たしていた(現在は197席に増設)。

 2014年、ガイドラインで奨励されている車いす席数をほとんどのプレミアリーグクラブが満たしていないことが報道で発覚し、猛批判が巻き起こった。それに比べるとレスターの先進性は抜きん出ている。レスターはその報道後、同じ年にプレミアリーグに昇格した。英高級紙ガーディアンによれば、2014~15シーズンのトップリーグで車いす席数の要件を満たしていたのは、レスターを含む2つのクラブだけだった。

 レスターに障がい者対応について問い合わせると、すぐに上記イベントの詳細と共にクラブの取り組みの資料が大量に送られてきた。その中で目を引いたのが、サポーターに寄り添う一人の女性の姿だった。