アウェー試合で存在感を示す大分トリニータのサポーター。ホーム試合ではパラスポーツ体験会を毎回開いている(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

サッカーJリーグが誕生から30周年を迎えた。この間、世の中は大きく変わった。企業の社会的責任が注目され、「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)」が重要なキーワードになった。

Jリーグもこの潮流に乗ってきた。6つある活動方針の1つに障がいのある人も一緒に楽しめるスポーツのシステムをつくる、としてインクルージョンを念頭においている。スタジアムにおけるアクセシビリティ(使いやすさ)は、どこまで進化できるのか。連載第4回(最終回)は、ホーム試合で毎回、パラスポーツを体験する機会を来場者に提供しているJ2・大分トリニータの取り組みを紹介する。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

第1回:Jリーグ30周年、英プレミアリーグで見た障がい者が熱狂できるスタジアム
第2回:英プレミアリーグのレスター、障がい者サポーター1000人全力支援で競合を圧倒
第3回:「フロンターレがあったから頑張れた」ある車いすJリーグサポーターの観戦記

 ゴールデンウィーク最終日の5月7日。トリニータの本拠地「レゾナックドーム大分」で青いホームユニフォームを着て競技用車いすに乗り、笑顔を見せていたのは今月4歳になった岩崎叶空(のあ)ちゃんだ。

(映像:岩崎宏美さん提供)

 大分市に暮らす叶空ちゃんは1歳からドームに通う小さなトリニータ・サポーター、通称「トリサポ」だ。兄がサッカーをしていたことや、トリニータのマスコット、亀の「ニータン」が大好きで母子でドームに通ううちにトリニータの虜になった。ブラジル人DFのマテウス・ソウザ・ペレイラ選手の大ファンで、4歳にして「オレ!バモ!ペ・レ・イラ!」など、チャントも完璧に熱唱する。

 この日、叶空ちゃんは試合前に開催されていた「パラスポーツ体験会」で、車いすマラソン用の競技用車いすに乗り、懸命に大きな車輪を漕いだ。体験後「ちょっと怖かった。楽しかった。またしたい」と両手で車いすを漕ぐ仕草も交えて、子供らしい感想を述べた。

大分トリニータのパラスポーツ体験会で競技用車いすに乗る岩崎叶空(のあ)ちゃん(写真:岩崎宏美さん提供)

 叶空ちゃんが初めて参加したパラスポーツ体験は、2018年よりトリニータがホーム試合で毎回開催し続けているものだ。試合に訪れるアウェーサポーターも含め、誰でも無料で参加できる。

 叶空ちゃんの母、岩崎宏美さんは、この体験から自身も考え方が変わったという。毎回ホーム試合でパラやユニバーサルスポーツを体験できることは教科書などで学ぶよりも自身の知識につながり、強く印象にも残ると語った。レース用の車いすは男女で異なることや、前輪が非常に小さく、12キロの叶空ちゃんが乗っても後ろにひっくり返りそうになったことなど、初めて知ることが多かったという。

「順番待ちをしている時も親は(担当者にパラ・ユニバーサルスポーツについての)話を聞くことができます。どんな風にして乗り、漕ぐのか。手で漕ぐことで、皮が剥けたりしないのか、などです」

「叶空には色んな世界があるということを学んでほしいし、また『障がいはかわいそう』と思わず、個性であって、みんな同じなんだと思える子供になってほしいです。そしてちゃんと手助けもできる、優しい女性になってくれたら嬉しいです」と話した。