NHK大河ドラマ『どうする家康』で、新しい歴史解釈を取り入れながらの演出が話題になっている。第17回放送「三方ヶ原合戦」では、武田信玄からの侵攻を受けて防戦一方となった徳川家康が、織田信長への援軍要請へと動く。家康は重臣たちと議論した結果、籠城戦を決意。ところが、そんな家康をあざ笑うかのように、信玄率いる武田軍は浜松城を素通りしていく・・・。信玄の脅威に圧倒されながらも、家康が生き残りをかけて家臣たちと団結する、そんな手に汗握る展開となった。その見所について、『なにかと人間くさい徳川将軍』の著者で、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
ムードメーカー酒井忠次の心に迫るシーン
当サイトで『どうする家康』の見どころ解説を毎週書いているため、リアルタイムで見られるときでも、あとで見返せるように録画している。「もう一度あとで見よう」、そう思うシーンは、その人物「らしくない」行動をとったときである。
今回もそんなシーンがあった。いよいよ、武田信玄と一戦を交える「三方ヶ原の戦い」が始まるというときのことだ。出陣前に大森南朋演じる重臣の酒井忠次が、猫背椿演じる妻の登与にこんな声をかけている。
「髪に何かついておるぞ。ほれ、近う」
そう言って近づくと、忠次は妻を無言でぎゅっと抱きしめた。もっともドラマの序盤で忠次は「妻の柔らかい肌を思い浮かべると、心が落ち着きます」というセリフも言っており、夫婦で仲睦まじい様子はすでに描写されていた。
しかし、いつも「海老すくい」の踊りを率先して始めるムードメーカーが、まるで今生の別れとばかりに切ない表情で、妻を抱擁する姿は心に迫るものがあった。今回の戦いはこれまでになく厳しいものになる。誰もがそう確信していたということが、よく伝わってくるシーンだった。
そんな忠次は、天正3(1575)年の「長篠の戦い」においては合戦の前に、海老すくいの踊りを披露したことが、徳川幕府の正史である『徳川実紀』に記録されている。この「三方ヶ原の戦い」から忠次はどんなことを学び、再び武田軍と戦う「長篠の戦い」では、どんな思いで海老すくいの踊りを披露したのだろうか。
個性あふれる重臣たちの成長ぶりもまた、本ドラマのみどころの一つである。