90年、訪中した作家マルケスは、会いに駆けつけた錢鍾書などの作家に対し、「あなたたちはみな海賊版の共犯者だ」と言い放った。錢鍾書は民国時代と文化大革命を経験し、著作権意識の形成と消滅の過程を目の当たりにしてきたが、マルケスに説明することはできず、一言も発しなかった。これは中国人にしか分からない特異な歴史なのだ。

不自由が助長する「海賊版」文化

 改革開放が進む中、中国人の著作権意識も徐々に高まっていったが、常に存在する問題がある。それは、中国共産党政府が、人々が自由に作品を見ることを許していないことだ。

 以前、本コラム「中国の若者たちはアメリカの『ゴミ』の向こうに何を見たのか」でも述べたように、中国人は米国のプラスチックゴミ(「打口」と呼ばれる穴が開いたCDなど)を通して欧米の現代音楽に触れた。そして人々はこれらのゴミをコピーし大量の海賊版を作った。

 中国では、西側世界のほとんどの音楽の正規版が政府によって輸入禁止とされていた。そのため打口音楽や海賊版を聴くことが人々の唯一の選択肢だった。

 習近平政権発足前の中国には、海外文化に比較的寛容な時期があった。外国のテレビドラマが中国にも一定数入ってきて放送された。その中でも、アメリカのドラマ「ビッグバン★セオリー」は中国で非常に人気があった。だが、2014年、中国共産党政府は「ビッグバン★セオリー」を含む4つのアメリカドラマを突然放送禁止にした。後に一部の放送が再開されたが、政府は外国の映像作品に対する検閲を強化しており、Netflixなどの動画配信サイトは中国で事業を展開できない状態だ。