いわゆる「自由の精神」とは、欧州で始まった反著作権運動を指す。

 実際、世界最大の海賊版ウェブサイトは、スウェーデンの反著作権団体が開設した「パイレート・ベイ(The Pirate Bay)」で、2008年には、同時オンラインユーザー数が1000万人を超えた。映画ドラマ、音楽、ゲームなどのダウンロード可能な作品数は100万点を上回る。

 同サイトの運営者は、著作権は少数の人々に富をもたらすメカニズムであり、社会の不公平を助長させると主張している。しかし、このような見解は社会に受け入れられず、2009年にはスウェーデンの裁判所が「パイレート・ベイ」の4人の運営者に対して1年の懲役刑と高額の罰金を科した。だが、このサイトは現在も運営されている。

「パイレート・ベイ」のようなウェブサイトが存在するため、一部の中国人は、海賊版には「自由の精神」があると理解しているのかもしれないが、中国が「海賊版大国」になった本当の理由はスウェーデンとは全く異なる。スウェーデン人の行動は反資本主義のポストモダン的な運動であると言えるが、中国はまだ完全な現代社会になり切っていない状態である。

海賊版であることすら知らない中国人

 1990年、ノーベル文学賞受賞者のガブリエル・ガルシア=マルケスが中国を訪れ、「150年間、中国に自分の小説の出版権を与えない」と宣言した。それもそのはず、彼の小説『百年の孤独』は中国の読者から多くの支持を得ていたが、読者が読んでいたのは海賊版の本であり、マルケスは中国から印税を一銭も受け取っていなかったからだ。

 実際にはマルケスだけがこのような扱いを受けたわけではない。私のように1980年代初頭に中国で生まれた者は、青春期に多くの日本の漫画を読んだが、すべてが海賊版だったと記憶している(本コラム「日本のアニメを見て育った中国『改革開放』世代の嘆きと絶望」を参照)。