この食事の席で湯氏から聞いた内容が公安調査庁に伝わったのか否か、あるいは伝わっていたとしたらどう伝わったのかは明らかになっていない。ただ、もし何かしらの形で伝わっていたのなら言い訳は難しいだろう。ちなみに判決文によれば、中国当局は2010年から鈴木氏を公安調査庁のスパイであるとみて捜査を行っていたという。目をつけられていたということだ。

公安調査庁との間で金銭授受は本当になかったのか

 筆者は、鈴木氏が解放され帰国してから、政府関係者や公安関係者、警察などに取材を続けてきた。ある公安関係者は、匿名を条件にこう語っている。

「中国に利することになるのであまり言いたくはないですが、鈴木さんは公安調査庁から金銭を受け取っていました。さらに中国で捕まっている間も、鈴木氏側に(政府から)補償がなされていたと認識している」

 この“証言”だけでは断定はできないだろうが、事実とすれば鈴木氏は公安調査庁のエージェントとして中国で活動していたことが疑われる。

 この点について、鈴木氏はどう答えるのか。筆者はそれを確認すべく、鈴木氏へのインタビュー申請をしたが断られた。

 もっとも鈴木氏は著書の中で、「私は公安調査庁から任務を言い渡されたこともなければ、報酬を受け取ったこともない」「もし公安調査庁がスパイ組織だと知っていたら、そもそも私は同庁の職員とは付き合わない。任務ももちろん帯びていない。任務だとすれば、私の旅費、ホテル代を公安調査庁が支払い、何々について調べろと命じられ、私がそれに応え、さらにレポートにして出すだろう」と否定してはいる。