(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
勝てるはず、だった。23日に投開票された衆参両院の5つの補欠選挙。野党第一党の立憲民主党は少なくとも衆院千葉5区と参院大分選挙区の2つでそう見込んでいた。
それも千葉5区は「政治とカネ」の問題で自民党の前職が辞職したことによる。不祥事のあとの選挙は野党に風が吹く。報道各社の事前の情勢分析でも自民党の新人との接戦が報じられていた。
ところが結果は、日本維新の会の新人が競り勝った衆院和歌山1区を除いて、自民党の4勝1敗。立民は全敗だった。いったい、何が起きていたのか。江戸川を挟んで東京と県境を接する浦安市と市川市の一部からなる、千葉5区に注目してみた。
地味で真面目な男
投開票日3日前。朝6時。JR市川駅の南口。改札口に向かうエスカレーターを上ったところで、スーツを着た男が腰を屈めるようにして、通勤客を出迎えて選挙チラシを配っていた。元総理大臣の野田佳彦だった。
自民党の総理経験者だったら、まずやらない。だからこそ、その腰の低さに驚かされる。それでも総理経験者として、安倍晋三元首相の追悼演説を国会で行なっている。
4月11日に補欠選挙が告示されてから、選挙区内の主要な駅前でほぼ連日、朝の6時から8時までこうした野田の姿があった。