サプライチェーン上の人権侵害行為を排除する取り組みで合意した西村経済産業相と米通商代表部(USTR)のタイ代表(写真:AP/アフロ)

 2023年4月4日、経済産業省から「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」が発表された。本資料は、2022年9月に日本政府が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」に基づき、企業が対応すべき人権尊重に関する取り組みの内容をより具体的に示すことを目的としたものだ。

 本資料の発表を機に、「自社でもいよいよ『ビジネスと人権』領域の取り組みを本格化しなければ」と緊張感を高めている日本企業も少なくないが、一方で本資料の意味合いや位置付けをよく理解できていないビジネスパーソンも多いのではないか。

 昨年の「人権尊重のためのガイドライン」、そして今回の「実務参照資料」と、政府及び経産省が活発に企業向け資料を発出してきた背景には何があるのだろうか。

(矢守 亜夕美:オウルズコンサルティンググループ プリンシパル)

強まる日本への「人権デュー・ディリジェンス法制化」プレッシャー

 前提として、欧米を中心に近年「ビジネスと人権」関連の法制化が加速する中で、「日本は遅れをとっている」と指摘されてきた事実がある。

 欧州では、企業に人権デュー・ディリジェンス(事業を通じて及ぼしうる人権への悪影響を特定し、防止・軽減するための取り組み)を義務付ける法令がイギリス・フランス・ドイツなどで施行されている。

 また、欧州連合(EU)全域を対象とする「企業持続可能性デュー・ディリジェンス(Corporate Sustainability Due Diligence)指令」の策定も現在進められている。これは、欧州での売上高などが一定水準を超える企業に対し、人権・環境に関するデュー・ディリジェンスを義務付ける内容だ。

 米国はカリフォルニア州で同種の法律(サプライチェーン透明法)が施行されている他、強制労働が疑われる新疆ウイグル自治区関連産品の輸入を禁じる「ウイグル強制労働防止法」も昨年施行した。

知的障がい者に強制労働させていたと報じられた新疆ウイグル自治区の建材工場。この工場は既に閉鎖されている(写真:AP/アフロ)

 一方、日本政府は2020年に「ビジネスと人権に関する行動計画」を発表したが、企業に対しては人権デュー・ディリジェンスの導入を「期待する」との記載に留まり、義務化や法制化にはやや慎重な姿勢を示してきた。そのため、NGOなどからは「日本も早く法制化の議論を進めるべき」との声が上がっていた。

 さらに、最近では海外からのプレッシャーが一層強まりつつある。

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