(若林 理紗:オウルズコンサルティンググループ・ソーシャルPRスペシャリスト)
ビジネスにおける人権尊重の取り組みを議論する「国連ビジネスと人権フォーラム」が、スイス・ジュネーブの国連事務局で、11月28日から3日間にわたって開催された。
本フォーラムは、2011年に国連人権理事会が全会一致で採択した「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」の普及と、国家、企業、市民団体等がそれぞれの進捗状況を共有する場として2012年から開催されている。
新型コロナウイルスのパンデミックやウクライナ戦争等により脆弱な立場にいる人々の人権が脅かされる中、11回目となる本フォーラムは「Rights holders at the center(ライツホルダーを中心に)」が主題に掲げられた。
本記事は、フォーラムに現地参加した筆者が速報をレポートするものである。
国連事務局の改修工事により規模を縮小しての開催となったが、世界各国の政府、企業、先住民コミュニティ、労働組合、弁護士、研究者等が集い、全体が集まるオープニングプレナリー(全体会議)等を含め25のセッションが開催された。
3年ぶりとなる現地での開催に足を運んだ参加者は1200人にのぼり、オンライン視聴者を含めると2500人となった(いずれも速報値)。うちビジネスセクターとソーシャルセクターからの参加者がそれぞれ30%、その他で残りを占める構成だ。
「ライツホルダーを中心に」
今年掲げられたこのテーマの背景には、国や企業による「ビジネスと人権」への取り組みが、人権侵害に直面する人々の救済に十分につながっていないとの危機感がある。
ライツホルダーとは人権の主体となる人のことであり、「ビジネスと人権」の文脈では、企業の活動を通じて人権を侵害されている、またはされる可能性がある人々を指す。
人権はすべての人が生まれながらに持っている権利だが、前述した国連の指導原則の中では、女性や子ども、障害者、外国人労働者、先住民といった社会的立場の弱い人たちには特に配慮が必要であると明記されている。
昨年、採択から10年を迎えた指導原則は、企業の事業活動によって負の影響を受けてきた人々の人権を守るため、国家には人権侵害から保護する義務を、企業には人権尊重の責任を求め、司法やそれ以外での措置を含む「救済へのアクセス」の整備に取り組むことを呼び掛けている。
指導原則の策定以降、ビジネスにおける人権尊重を実現するための取り組みが世界各国で加速しているが、その際に「ライツホルダーの視点に立つこと」の重要性が、本フォーラムのほぼすべてのセッションで強調された形だ。
フォーラムには南米やアジアから約50人の先住民の代表が参加し、企業活動の展開に伴う土地収奪や暮らしの破壊など、各地における人権侵害の現状が共有された。先住民の人権擁護者に焦点を当てたセッションには、コンゴ民主共和国、グアテマラ、コロンビア、タイ、マレーシアから先住民代表の参加があったほか、ほぼすべてのセッションに先住民の代表者が登壇し、苦しい現実を訴えた。
国や企業の取り組みがどれだけ盛んになっても、人権侵害を受けている当事者の声をメカニズムの起点としなければ、真の救済にはつながらないとの強い問題意識が本フォーラムの全体を貫いていた。