企業が人権リスクへ適切に対処する「人権デュー・ディリジェンス」は、国内外のサプライチェーンで無視できないトピックになっている。日本でも経済産業省が人権尊重にまつわる検討会を発足させ、今夏にもガイドラインが発表される予定だ。世界の人権問題の解決に取り組むオウルズコンサルティンググループ代表取締役CEOの羽生田慶介氏、フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長の潮崎真惟子氏、人権尊重に早くから対応してきた先進企業・花王ESG活動推進部部長の柴田学氏を迎え、日本企業が取り組むべき「ビジネスと人権」について、その動向を追った。

※本コンテンツは、2022年6月29日(水)に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回 サステナビリティ&ダイバーシティ経営フォーラム」のパネルディスカッション「サプライチェーンの最重要アジェンダ『ビジネスと人権』」の内容を採録したものです。

動画アーカイブ配信はこちら
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71620

ビジネスと人権は、世界の関心事。日本も人ごとではない

 日本でもESG投資が盛んになりつつある。多くの日本企業が環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮した企業活動に取り組み始めている。しかし、株式会社オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEOの羽生田慶介氏は次のように指摘する。

「ESG投資では企業が開示すべき項目(GRIスタンダード)が知られていますが、実は環境(例:原材料・エネルギーなど)やガバナンス(腐敗防止・反競争的行為など)に関連した項目よりも、社会(例:雇用・労使関係・労働安全衛生など)に関する項目が多いのです。児童労働や強制労働、さらにはハラスメント関連などの人権リスクに対応した開示項目が数多く列挙されています。しかし、SDGsに関する国連アンケート『MY WORLD 2030』の目標別関心度(17項目の目標別関心度合いを世界・日本で比較)を見ると、日本は世界に比べ人権への関心が薄く、環境へ関心が偏重しています。日本企業は、もっと人権リスクと向き合うべきでしょう」(羽生田氏)

 企業活動における「人権問題」は世界の関心事だ。2021年10月のG7貿易大臣会合では中国・新疆ウイグル自治区を念頭に置いた閣僚文書が発出され、文書に初めて「強制労働」という言葉が盛り込まれた。日本国内に目を向けても有価証券報告書に「人権」というキーワードが頻出するようになり、2020年10月には日本政府が「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を発表している。

 さらには「人権デュー・ディリジェンス」(人権DD)の課題もある。人権DDとは、企業が展開する事業やサービス、またそのサプライチェーンにおいて、強制労働・児童労働・ハラスメントなどの人権リスクを特定し、適切かつ継続的に対処する取り組みを指す。世界中で起こる人権問題を背景に、日本国内でも2022年2月に経済産業省が「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」を発足、今夏にはガイドラインが取りまとめられる予定だ。