習近平国家主席は「30年までにCO2排出をピークアウトし(炭達峰)、60年までにカーボンニュートラル(炭中和)実現を目指す」と表明している( 写真は2022年 北京パラリンピック 開会式でのもの)写真:MA SPORTS/アフロ

 気候変動対策に取り組む機運が高まる中、カーボンニュートラルは世界的な潮流になりつつある。

 日本政府は2020年秋に「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、カーボンニュートラルを実現する脱炭素社会を目指す」と宣言した。

 世界最大の排出国である中国も野心的な「3060目標」を掲げてから関連政策を公表し、本格的に動き出した。こうした中、企業は単なるCSR(企業の社会的責任)の考え方を捨て、脱炭素を新たなビジネスにするように取り組み始めている。個人消費においても環境保護意識の向上が消費行動に新たな変化をもたらし、中国では中古ビジネスなどが人気を博している。

中国の「3060目標」、脱炭素へ

 2020年9月に習近平国家主席は「30年までにCO2排出をピークアウトし(炭達峰)、60年までにカーボンニュートラル(炭中和)実現を目指す」と表明した。中国国内ではこのことを「3060目標」あるいは「双炭目標」と呼んでいる。

 「3060目標」は何を意味しているのだろうか。経済発展なら環境を犠牲にしてもしょうがないという従来の成長一辺倒路線から脱出する宣言だけではない。中国政府がこの宣言に踏み切り、脱炭素を新たな発展戦略としてビジネスにする思惑も明々白々である。

 そうであれば、特に企業などビジネスをする側はどう考えて行動すべきだろうか。

 中国では近年、「政治正確(political correctness)」という言葉がはやっている。「政治正確」は一般に「政治的妥当性、人種、信条、性別などによる偏見を含まない中立的な用語」とされているが、中国では政治的に正しいことをやり、政治的意図/政策に従うこととの意味合いで使われる場合が多い。

 現在、「3060目標」という宣言のもと、企業も個人もその目標達成に呼応し努力することがまさに「政治正確」である。もちろん、脱炭素という新成長戦略に沿ってビジネスチャンスを発掘し、利益を獲得することができればベストだ、との考えも広く受け入れられている。

テック企業のアクションは積極的

 プラットフォーマーやIT企業などは「3060目標」に向けて、デジタル技術を用いて脱炭素・グリーンビジネスに取り組み始めている。

 こうした中、SNS最大手のテンセントは2021年4月に500億元の基金を用意し、「持続可能な社会価値イノベーション事業部(Sustainable Social Value)」を新たに設置した。持続可能なテックイノベーションをはじめ、農村振興、FEW(フード、エネルギー、水)、教育革新、脱炭素などの分野に注力しようとしている。

 さらに、今年2月下旬に「テンセントカーボンニュートラル目標・ロードマップ」(通称、「ゼロ計画」)を公布し、2030年までに「自社だけでなくサプライチェーン全体におけるカーボンニュートラルの実現」および「100%グリーン電力稼働」を明らかにした。

 テンセントの現在の事業軸は消費者向け(ToC)と産業向け(ToB)の2つに分けられる。そのため、脱炭素関連商品・サービスもこの2つの事業軸を中心に展開している。

 消費者向けでは、10億人超のユーザーを対象に低炭素ライフスタイルの提唱や関連知識の教育普及による環境保護意識の向上に力を入れている。例えば、昨年12月に深セン市生態環境局と連携し、「低炭地球」ミニプログラムを開発した。市民が外出する際に、車より公共交通機関の利用あるいは徒歩がどれほどCO2排出の削減につながるかを見える化にしている。

 産業向けでは、デジタルツインやブロックチェーン、クラウド、AIなどデジタル技術による脱炭素の早期実現のための研究・開発を行い、各業界にソリューションを提供するという。例を挙げると、6月中旬にエネルギー業界に向けて初となる「エネルギーリンク(Tencent EnerLink)」と「エネルギーツイン(Tencent EnerTwin)」をリリースした。前者はエネルギーデータの収集・可視化や、分析・予測、CO2排出など、関係サプライヤー間のリンクとなり、後者は画像の収集と分析を通じて、風力発電等の異常を早期発見とするツールである。

 テンセントのみならず、前回の寄稿でも触れたが、昨年から環境保護や低炭素のような言葉がEC商戦のキーワードとなっているため、EC大手のアリババと京東は物流や販売における「低炭素」の競争が始まっている。