2022年3月5日、中国全国人民代表大会が開幕した。写真:AP/アフロ

 2022年3月上旬に北京で行われた全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)では、デジタル関連の言葉が依然としてホットワードとなっていた。デジタルエコノミーの用語が2017年に初めて政府活動報告に盛り込まれて以来、毎年、デジタルシフトの方向性を示すキーワードが登場するようになっている。今年は「デジタルエコノミーの発展促進」を目標にデジタルエコノミーのさらなる進化を求める姿勢を打ち出し、とりわけ、デジタルインフラの整備とともに、デジタル農村の発展に注力することを明言している。

 なぜ中国政府がデジタル農村を大いに推し進めようとしているのだろうか?

「共同富裕」に向けての農村振興、鍵はデジタル農村

 中国政府が2021年8月から「共同富裕(共に豊かになる)」を掲げ、中間層の多いオリーブ型社会を目指そうとしている。その実現に向けて、三次分配や格差の是正、農村振興、浙江省モデルの建設から着手していくとみられ、中でも、農村地域の貧困脱出の次に達成すべき目標として農村振興に力を入れようとしている。

 2月22日に打ち出された「2022年中央一号文件」(注:その年に最初に打ち出される政策であり、2004年から変わらず「三農問題(農民・農業・農村)」をテーマにしている)でも農村インフラの整備やデジタル農村の建設、農村地域の消費を強調している。

 そして、農村振興の鍵を握るのが農村地域のデジタルシフトだとみている。実際、ここ数年、農村地域のデジタル化が急進展している。農村地域におけるインターネットとスマホの普及に伴い、農村地域のネット人口が2015年の1億9000万人から2020年に3億人超(農村人口の約56%)まで増加しており、同期間の農村地域のEC販売総額も3530億元から1兆7900億元まで拡大している。

 農村地域のデジタル化進展がもたらしている変化が顕著だ。中国政府のシンクタンクである中国社会科学院は昨年末に、「農村の新たな9つの変化」という興味深いレポートを公開した。社会科学院の研究員らは1年を通して、多くの農村地域を訪問調査し、配達が可能な村の増加、農村がもっと賑やかになっていること、ライブコマースの取り組みで住民が遅くまで寝ていること、化粧する女性の増加、テックを取り入れた農作業の増加、デジタル化でチョークを使う場面の減少、渋滞状況に応じた信号の時間調整、農村市場に根差したブランドの成長、EC販売向けのビジネスが盛んなチャンピオン村の増加、といった9つの変化をまとめた。いずれもデジタルの力がなければ実現できないことだと言っても良いだろう。