DXの最大のインパクトは、それ自体が産業構造そのものを不連続的に変えてしまうこと、IX(インダストリアルトランスフォーメーション)を起こすところにある。コロナショックによりさらにDXが加速する現代社会で生き残っていくために、既存企業には会社の構造と組織能力の抜本的な変革であるCX(コーポレートトランスフォーメーション)が求められている。株式会社経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山和彦氏は、本気で会社を変えるために経営者に必要なものとして、「深化の手」「探索の手」の2つを挙げる。
※本コンテンツは、2021年11月26日に開催されたJBpress主催「第11回DX フォーラム」の特別講演Ⅳ「DX時代のコーポレートトランスフォーメーション」の内容を採録したものです。
「サイバー空間」という付加価値レイヤーの誕生
1980年代以降、世界では「グローバリゼーション」、そして「デジタイゼーションとデジタライゼーション」、この2つのイノベーションが掛け算で起きた結果として、破壊的イノベーションの波が押し寄せた。徐々に領域を広げながらさまざまな企業や産業、国をのみ込みつつ、今日まで続いてきたその波は、コロナショックでさらに加速・拡張している。IGPIグループ会長の冨山和彦氏は「DXによる産業構造の大変容」について、プロスポーツに例えて説明する。
「長年、慣れ親しんでいた野球という競技が消滅し、突然、サッカーに変わってしまうような話です。自分がプロ野球で、繊細かつ丁寧なプレーが得意だったとします。しかし、ふと周りを見るとプロサッカーが席巻しており、プロ野球にはプレーする場がなくなっている。そこで、それでも従来とは全く違うスポーツの中で、なんとしても生き残るために頑張る。そのようなことがビジネスにも起きているのです。経営者は会社の形やビジネスモデルを変容させるCXをしていかなければなりません」
DXによるIXにより、産業構造はピラミッド構造からミルフィーユ構造へ変容した。そして上部に「サイバー空間」という付加価値レイヤーが生まれ、それが上空を覆うと、下部にいる産業はサイバー空間において「空中戦力」を駆使する企業に壊滅的に破壊されるか、あるいはスマイルカーブの底(低収益の下請け的な立場)に位置付けられる。
1980年代のコンピューター産業から始まった第一期デジタル革命、その後の第二期インターネット・モバイル革命の時代を経て、このサイバー空間はますます巨大化し続けている。そして今、AI・IoT・ビッグデータの利用によって第四次産業革命と呼ばれる新AI時代が始まっている。
「一度、このような変化が起こるとゲーム内競争ではなくなります。例えば、パナソニックの立場だとして、昔なら東芝や日立などを見ていればよかった。しかし、現在は突然、登場する空中戦のプレーヤーを考えなければならなくなりました。例えば、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やNetflix(ネットフリックス)です。突然、登場した彼らのような空中戦のプレーヤーに、付加価値を持っていかれてしまうことが起きています」
DXの本当の衝撃はこのIXにあると、冨山氏は指摘する。突然、ゲームチェンジが起こり、全然違うゲームをやらなければならなくなる。工業化段階の大量生産、大量販売型のアナログハードウエアのものづくりの形にある種、最適化してきた日本企業の多く、特にエレクトロニクスメーカーはついていけなかった。