
※本コンテンツは、2021年8月26日に開催されたJBpress主催「第2回 公共DXフォーラム」の特別講演Ⅰ「行政デジタル・トランスフォーメーション(DX)への展望」の内容を採録したものです。
2021年9月1日、日本にもデジタル庁が発足した。デジタル社会の実現に向け、「①オープン・透明」「②公平・倫理」「③安全・安心」「④継続・安定・強靭」「⑤社会課題の解決」「⑥迅速・柔軟」「⑦包摂・多様性」「⑧浸透」「⑨新たな価値の創造」「⑩飛躍・国際貢献」の10の観点から、国を挙げてDXに取り組む、政府のITガバナンスで重要な役割を担う内閣官房 政府CIO上席補佐官(現 デジタル庁データ戦略統括)の平本健二氏に「自治体DX」を成功に導く勘所を聞いた。
これまでと次元の違う取り組みが求められている
日本では、2020年11月から各地方自治体での情報システムの標準化・行政手続のオンライン化などについて検討する「地方自治体のデジタル・トランスフォーメーション推進に係る検討会」が開催されており、その会議をもとに「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」が策定・公表された。
「自治体DXは、BPR(Business Process Re-engineering)のような単なる業務改革・業務再設計ではない」。そう話すのは、内閣官房 政府CIO上席補佐官の平本健二氏だ。
「BPRは20年間以上にわたって必要性が問われてきましたが、現実はというと、行政では全く進んでいません。でも、BPRについてはプロセス再構築、単なる現場改革に近いため、やらなくても不便さ・不効率さが残るだけで業務そのものは止まりません。
しかし、DXはやらないと社会に置いていかれます。自治体や行政が社会に置いていかれるわけにはいかない。はやり言葉が『BPR』から『DX』に置き換わっただけではありません。これまでとは次元の違う取り組みが自治体に求められていることを認識しなくてはなりません」
さらに平本氏は続ける。
「例えば、役所は『明日17時までに申請書と手数料として現金で1980円お釣りなしでお願いします』なんてことを利用者(市民)に求めてきましたが、キャッシュレスが生活に浸透した市民からすれば『今どき?』という感じでしょう。
さらに、わざわざ限られた時間帯に役所に足を運び、さらに順番を待つような状況に不便さや憤りを感じるのは当たり前です。自治体には、DXがどこか遠くで起こっているものだと思わず、身近で起こっている変化だと捉えていただきたい」
エストニアとイギリスの事例に学ぶ
自治体DXによって、市民サービスの何が変わるのか。代表的ユースケースが、デジタル変革で電子政府化を行ったエストニア共和国である。同国は行政システムの電子化に注力し、既に行政手続きの99%が電子化している。
「エストニアのように行政機関のデジタルファーストが進むと、役所の窓口が圧倒的に小さくなり、対応に必要な職員の数が減ります。同国のタリン市役所の窓口職員数は少なく、市民は事前にアポイントを取り、予約時間に役所に行き、無人受付案内パネルをタッチ操作します。
その後の手続きも、役所に置いてあるコンピューターを使いながらおのおのが自分で行います。それまで職員が働いていたオフィスはコミュニティーセンターとして開放され、料理教室などが開かれています。
エストニアのユースケースはデータ連携基盤システム『X-Road』や『デジタルID』などのテクノロジーばかりに注目が集まりがちですが、その本質は20年の時間をかけ、データ基盤を構築したことです」
自分の情報にどこからでもアクセスでき、行政サービスをワンストップで受けられる。そうした「データが連携された世界」では確実に利便性が高くなる半面、セキュリティー面に不安が残る。
しかし、こんな興味深いデータもある。
2020年、コンサルティングファームのアクセンチュアが日本を含む世界11カ国6500人以上を対象に実施した調査によれば、「回答者の84%(日本79%)は、『よりパーソナライズされた公共サービスが得られるならば、行政機関に対して個人情報を共有しても構わない』」。さらに「41%(日本は20%)は『公共サービスが向上するのであれば、個人情報を複数の行政機関で共有しても良い』」と回答した。
「これは興味深い調査結果だと思いました。ショッピングサイトで自分のクレジット番号や自宅情報を入力することに慣れ、だんだんと個人情報の提供を許容できるようになってきたのだと思います。大事なのは安全と利便性のバランスなのです」
さらに自治体DX実現のためには「自治体の職場においても、デジタルを前提とした抜本的なワークスタイル改革を行う必要がある」と平本氏は指摘する。これには、イギリスのブリストルにおけるワークスタイル改革が、ケーススタディーになる。
「ブリストルでも日本の役所と同じように、以前はたくさんのデスクが並んでいました。しかし、改革最初のフェーズでデスクの数を60%に削減。空いた40%をフリーアドレスにしました。
その後もデスクを縮小(30%)、フリーアドレスを拡大(50%)し、さらに空いた20%のスペースで市民との協働ワークショップを行った。それが終わると今度は、職員の働き方そのものを抜本的に見直し、専任的な働き方から協働・コラボレーションによる働き方へ変革を進めていきました。
こうして職員のマインドセットから変えていったのです。自治体DXというと、テクノロジー活用や市民サービス向上に気を取られがちですが、DXを主導していくのは職員の皆さん。ブリストルのケースのように、職員も幸せになれる仕組みの構築が重要な観点です」
平本氏が考える自治体DXのポイント
平本氏は自治体DXを実現するための10カ条と、そのポイントを次のように整理する。
①バリューを考えよう:「デジタル化の予算はコストではなく投資。まずはデジタル化で何かしらの効果を得て、その効果を次のデジタル化につなげていきましょう。そのために『デジタル化で生み出されるバリュー(価値)が誰のためのものか』『何がバリューになるのか』を考える必要があります」
②デジタル化以前の問題を考えよう:「デジタル化ありきで物事を考えるのではなく、『その行政手続きは本当に必要なのか』とった具合に、デジタル化の以前にある根本的な問題・課題が何なのか、突き詰めて考える必要があります」
③デジタル敗戦の思想から脱却しよう:「過度なセキュリティー対策やプライバシー対策など、『危ないからやらない』という思想は自治体DXを萎縮させます。職員・市民を含めた、まちの関係者が前向きに挑戦できる、そんなマインドセットを育みましょう」
④世界を見て、新技術で妄想しよう:「国内外には自治体DXの先進事例がたくさんあります。インターネットで先進事例を知り、学び、まねをしながら吸収しましょう。新しい技術を知る癖をつければ、やがて『この技術は何に使えるだろう?』と考えるようになります。その妄想力が自治体DXの原動力となるはずです」
⑤街ぐるみのチーム力をつけよう:「自治体DXは対象範囲が非常に広く、自治体単独では決して実現できません。さまざまな領域に精通した関係者の協働が不可欠です。自治体内の人材確保や人材評価の仕組みを構築するとともに、市民を含む関係者がおのおのの能力を発揮できるコミュニティーづくりにも注力しましょう」
⑥DXの環境を整備しよう:「DXには何よりもデータが不可欠です。そろえておいて損はありません。DX実現に必要なツールも、今は比較的安価に購入でき、導入コストを回収する削減効果もすぐに生まれます。積極的に投資しましょう」
⑦自前主義ははやらない:「全て自前でやるのは、DXの世界のはやりではありません。よそに良い事例があるのならばパッケージごと導入してもOKです。しかし、そのためにはデータやインターフェースを標準化しておく必要があります」
⑧ロードマップとスモールサクセス:「変革への取り組みに対して皆さんの理解を得るためにも、スモールサクセスを実現し応援団(理解者、協力者)をつくり、ロードマップ策定で中長期計画を示すとよいでしょう。多様な人たちから意見も集まりやすくなります」
⑨定着させる、持続させる:「自治体DXは定着・持続が重要ですが、仮に異動や担当者変更があった場合、後任者に理解されないことが多くあります。せっかく進めてきた自治体DXの取り組みが引き継ぎによって元に戻ってしまうなんて、こんな悲しいことはありません。引き継ぎでは、単なる業務的引き継ぎではなく、バリューや心意気を共有しましょう」
ここまで整理した後、平本氏はさらにこう続けた。
「もう1つ、自治体DXを成功に導くポイントを提示するとするならば、『⑩発想と行動を変えよう』です。
経済産業省DXオフィスにある自治体DX推進会議事務局では、『自治体DX行動プラン』を作成しました。自治体DXを進めるためには、ここに挙げたように、発想と行動を変えて『みんなでシェアする』ことが大切です。今後もさまざまな情報をみんなシェアしながら取り組んでいきます」










