※本コンテンツは、2021年2月26日に開催されたJBpress主催「公共DXフォーラム2021」の特別講演Ⅰ「自治体のデジタルトランスフォーメーション~人口3000人・福島県磐梯町のDXへの挑戦と実践~」の内容を採録したものです。

福島県磐梯町
CDO(最高デジタル責任者)
菅原 直敏氏

人にやさしいデジタル技術で、誰一人取り残さないことが重要

 DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル変革)という言葉を耳にする機会が増えている。そしてDXに対する関心は、民間企業だけでなく自治体でも高まっている。

 そうした中、神奈川県在住で民間企業を経営する菅原直敏氏は、福島県磐梯町のCDO(最高デジタル責任者)を務め、自治体の仕事とDXの双方に精通するエキスパートとして知られている。その菅原氏は自治体のDXについてこう指摘する。

「多くの人々の頭の中には、Society5.0、AI(人工知能)、スマートシティ、ブロックチェーンといった、いわゆるテクノロジー用語が入って負荷がかかっているのではないでしょうか」。

 いわばテック起点になっているわけだが、DXに求められる思考方法は決してそれではないという。

「テック起点ではなく住民起点でDXを思考すべきです。そこで大事なのは、自治体の哲学、ビジョン、ミッションです。日本には約1700の自治体があり、それぞれの表現は異なると思いますが、住民本位であることは共通するはずです。どの自治体も、哲学、ビジョン、ミッションを実現する手段としてヒト・モノ・カネを使ってきました。しかし、人口が減少局面に入る中で、使えるヒト・モノ・カネがどんどん少なくなっています。そこで、この3つにプラスする要素としてデジタル技術『も』使えるということなのです」(菅原氏)

DXの思考法
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 菅原氏は、DXは何でもデジタルだけで行うことだと考える人がいるが、それは誤りだとし、大切なポイントを「まず、デジタル技術は『手段』であって、『目的』ではないことです」と話す。

「DXの実務の段階になると、『AIを使わなくては』、『RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を入れなくては』、『補助金が付くからとにかく使わなければ』、となりがち」(菅原氏)

 さらに、自治体におけるDXについて民間企業との違いを次のように説明する。

「自治体のDXは『人に優しいデジタル技術で、誰一人取り残さない』こと、そして、『行政、地域、社会のあらゆる分野がデジタル技術によって再構築される』ことが大切です」

 民間企業であれば、費用対効果を考慮して顧客の選別も行うだろうが、自治体ではそういうわけにはいかない。またDXについて、情報システム部門だけが関わるのではなく、全ての部署、職員がリテラシーを持つべきだと言う。

 その上で菅原氏は、自治体におけるDXの定義について、「自治体と住民がデジタル技術を活用して、住民本位の行政、地域、社会を再構築するプロセス」であると強調する。