かつて世界第2位の経済大国として世界の注目を集めていた日本は、長らく経済成長の停滞から抜け出せずにいる。IT化の波により世界各国が確実に成長している中で、日本だけが取り残されているのだ。今、かつての成功体験にすがるのではなく、既成概念を破壊する革新的なイノベーションを実現しなくてはならない。「プレイステーション」の生みの親であり、現在ではAIロボティックスの開発を手掛けるアセントロボティクス株式会社代表取締役 兼 CEOの久夛良木健氏が、企業内イノベーションの起こし方を語る。

※本コンテンツは、2021年11月26日に開催されたJBpress主催「第11回 DXフォーラム」の基調講演「企業内イノベーションの起こし方」の内容を採録したものです。

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かつての経済大国ニッポンはなぜ今、停滞しているのか?

 現在、AIベンチャーのCEOや大学での教育活動など、次世代育成にも尽力する久夛良木氏は、以前、大学で講義を受け持っていた際、ある学生の発言にショックを受けた。「私たちは生まれたときから日本の景気が良かったことが一度もないので、先生の話は全く実感が湧きません。親に聞いても同じ意見でした」という言葉を聞いたのである。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれていた大躍進時代を経験しておらず、不景気しか知らない親世代の影響をその子どもたちも受けていることに大きな危惧を感じた久夛良木氏は、現在の日本の問題を大きく2つ指摘する。

 1つ目は、「時間の流れが止まっている」ことだ。中でも深刻なのは事業そのものではなく、経営陣の意識だという。例えば、アニメやゲーム分野はいまだに日本がけん引していると思い込んでいる経営者は多い。しかし、実際には多くの優秀なクリエーターは海外にも多数おり、日本のプレゼンスは相対的に下落している。そうした世界から見た日本の立ち位置を理解せずに、「まだ大丈夫だろう」と高をくくっているのでは、事業成長どころか経営危機に陥る可能性すらある。

 2つ目は「チャレンジしない経営者の姿勢」であるという。戦後日本は国策として、官民一体となって輸出産業を推進してきたが、そうした戦後レジームは過去の栄光となりつつある。実際に、自動車産業は電気自動車(EV)に置き換わりつつあり、テレビはPCやインターネットにその座を奪われ、携帯電話はiPhoneを筆頭に海外勢に席巻されてしまった。こうした波は一気に押し寄せたわけではなく、事前に兆候があった。ところが、当時の経営者は誰もこの産業変化を正しく予見していなかったのだ。久夛良木氏は言う。

「イノベーションに対して、日本の企業、そして国全体が鈍感だったということが、ここまで衰退してしまった大きな原因だと思っています」