出光興産は化石燃料を中心に、100年超にわたって産業や暮らしに不可欠なエネルギーの安定供給という社会的使命を果たしてきた。だが、カーボンニュートラルやライフスタイルの変化に伴う燃料油需要の減少など、同社を取り巻く環境は大きく変化している。出光興産が描く2030年のビジョン、そして目標達成に向けて挑戦するDXを起点とした事業ポートフォリオの変換と環境変化への対応力強化について、木藤俊一氏が語る。

※本コンテンツは、2021年9月13日に開催されたJBpress主催「第10回 DXフォーラム」の特別講演Ⅲ「出光興産が挑むDX『 責任ある変革への挑戦』」の内容を採録したものです。

企業理念が2030年ビジョンの原点になった

「先行きが極めて不透明になっています。われわれはどこに向かうべきなのか、議論を重ねることから 始める必要がありました」と出光興産 代表取締役社長の木藤俊一氏は話し、「存在意義を原点に返って再認識し、将来、顕在化するであろう社会課題に向け、2030年ビジョンを作成策定しました」と続ける。

 エネルギー業界は、カーボンニュートラルをはじめとした環境変化が著しい。その中でレジリエンスを発揮し、将来にわたりサステナブルな活動をしていくために、出光興産は中長期的な事業戦略の再構築や、それぞれの施策のスピードアップの必要性を認識。2021年5月に中期経営計画の見直しを実施した。

 出光興産は、2019年に昭和シェル石油と経営統合した。統合以前の両社の歴史を見ると、「仕事を通じて人が育ち、無限の可能性を示して社会に貢献する」という共通の価値観が存在し、そこから現在の企業理念が生まれている。

「国・地域社会、そこに暮らす人々を想い、考えぬき、働きぬいているか。日々自らを顧みて更なる成長を目指す。かかる人が集い、一丸となって不可能を可能にする。私たちは、高き理想と志を掲げ、挑み続ける」。このステートメントは、「真に働く」という一言に集約された。そして「人間尊重」を経営の原点と位置付ける。

 これが出光興産としての判断軸であり、 グループ従業員一人一人が困難に直面したときのよりどころとなっている。
「この企業理念をもとに、中期的に成し遂げなければならないことも明確になりました」と木藤氏は話す。2030年ビジョンは出光興産が2030年時点で到達していたい姿をまとめたものであり、出光興産のDXはこれを達成する大きな流れの中で進められている。