連載の第1回では、ものづくりの現場が直面する課題とその解決策について紹介をした。だが、ものづくりの現場でこうした解決策を行おうとすると、さまざまな阻害要因に出くわす。そして、それらは残念なことに有機的につながっていて、ある一面的なアプローチではうまくいかないことも多々存在する。今回はこのものづくり産業が抱える問題と解決策について解説する。
製造業が抱える「DX魔のデッドロック」という問題
〔問題1〕設備やネットワークがデジタル化を阻害
現場の見える化のために、設備機器に振動などのセンサーを付け、そこから無線LANなどの通信手段を使ってデータを吸い上げるIoTの導入例で説明しよう。
工場内のデータをまずは事務所内で分析する場合が想定されるが、事務所内は無線LANが入る環境があったとしても、工場内に無線LANが敷設されていないケースがあまりにも多い。もちろん、加工設備によっては輻射ノイズがひどく無線LANでは太刀打ちできないため、サブギガ帯の無線を使うなども考えられるが、いずれにせよIoTの一つ手前の検討から始めざるを得ないことも多々ある。
また、設備の中にはアナログメーターなども多く、それらをどうやって読み取るのかが課題になることもある。
このように物理的な設備やインフラがデジタル化の阻害要因になることが多いのだ。
〔問題2〕人的な要因が設備課題の改善を阻害
では、老朽化した設備を最新の設備に入れ替えたり、工程の一部をロボット化する例で説明しよう。
最新の設備にする際には、その使い方などに慣れる必要があるが、既存の老朽化した設備に人のノウハウが詰まっていて容易に入れ替えられないという課題に直面することが多い(属人化されているという最たるケース)。
また、人が行ってきた作業をロボットに置き換えることで、足りない足りないといわれる労働力を補うアプローチも行われているが、ロボットに置き換え過ぎると、その工程で働いていた人たちの行き先を新たに考えなければならないという課題が発生する。
すなわち、設備課題を解決しようとすると、人的な要因が立ちはだかることが多いのだ。
〔問題3〕デジタル化が人的課題整備を阻害
人材不足が深刻な中では、技能承継はもちろん、省力化による生産性向上が必須なわけだが、現場がそのソリューションを知らないか、IoTといった課題解決に目が向かないか、そもそもデジタルな施策へのリテラシーがないといった課題が存在する。
つまり、生産性向上が可能なさまざまなデジタルソリューションが、リテラシーが十分ではない人でも簡単に使えるようになっていないことが大きな壁として認識され、立ちはだかっている。
このように、デジタル/フィジカル/ヒューマンな課題は相互依存性があり、単一の施策だけ実行しようとしてもうまくいかず、がんじがらめの状態に陥ってしまうのだ。
この状態を「DX魔のデッドロック」と呼んでいる。