2020年代の日本のものづくりは面白くなる

東大・藤本隆宏教授の感染症・デジタル化時代のものづくり戦略

JBpress/2021.2.9

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※本コンテンツは、2020年11月19日に開催されたJBpress主催「第1回 ものづくりイノベーション」の基調講演「感染症・デジタル化時代のものづくり戦略」の内容を採録したものです。

東京大学大学院経済学研究科 教授
ものづくり経営研究センター センター長
藤本 隆宏氏

経済の土台は「現場・現物」にあり

 本日は、感染症とデジタル化時代のものづくり戦略について、お話しします。私の専門は技術管理・生産管理でして、年間50回ほど工場や店舗などの「現場」に足を運んでいます。その理由は、経済の土台が「現場・現物」にあるからです。経済は産業の集まりであり、企業の集まりであり、地域の集まりです。そして、これら全ての土台には必ず「現場・現物」があります。

 この視点は「三方良し」という考え方にもつながります。「現場」、すなわち地方にある工場や町工場、開発センター、店舗、これらは全て「付加価値が流れる場所」です。このように考えると、付加価値として生み出される500兆円を支えているのが「現場・現物」ということになります。

 こうした付加価値を生んでいる場所は、企業に対して利益貢献をしています。そして、産業に対しては付加価値を生み出し、地域に対しては雇用の安定を提供しています。この「三方良し」は何百年も前から日本の産業人、近江商人が言っていたことです。

 経済の基本にあるのは「三方良し」、つまり「売り手良し、買い手良し、世間良し」という考え方です。最近、絶えず利益を追求していた海外の一部の論調が「マルチステークホルダー」ということを唱え始めました。しかしこれは、日本では数百年前から取り組んできたことなんですね。

 では、「現場・現物」とは何でしょうか。「現場」で最も有名なのは、トヨタ生産方式です。トヨタ生産方式は200以上のルーティンから成り立つといわれていますが、現場のものづくりの組織能力はデジタル化時代に一層重要になります。「デジタル化の時代、ものづくりはもう時代遅れだ」とおっしゃる方もいますが、戦略論としては誤りです。戦略論の原則は、強みを活かして、弱みを補うことにあります。だからこそ、GAFAの背を追うのではなく、世界で勝つための戦略的なデジタル化を考えることが必要です。

 次に「現物」です。物を設計するときの設計思想ことを「アーキテクチャ」と呼びます。「現場」のものづくりの能力、「現物」のアーキテクチャ、この2つが動態的に適合したときに製品の競争力が生まれます。例えば、自動車。1トンの物が高速で公共空間を動くとなると、あらゆることが物理法則に制約されます。重さのないデジタル製品とは大きな違いがあるわけです。そして、ここでは最適設計のためのインテグラル(擦り合わせ)型のアーキテクチャが必要になります。

 歴史的に見ても、日本は中国やアメリカとは異なり、移民に頼ることなく高度成長を遂げてきました。その結果、慢性的な労働力不足で、分業は貫徹せず、日本には協業型、サッカーチーム型、多能工のチームワークで動く現場が多くなったわけです。自動車の設計において日本が依然として世界の3割を押さえていることもうなずけますね。

 ところが、同じように日本が国際競争力を持っていたテレビ産業では、製品技術がアナログからデジタルにシフトした頃から日本企業が劣勢になり始めました。これはテレビのアーキテクチャがインテグラル型からモジュラー(組み合わせ)型に変わったためです。同じようなことがデジタル系の産業でも起こっています。