スマートなものづくりの3つの潮流

 この3ステップで進化することで製造プロセスの改革はどんどん進むが、周囲を見渡すと、世間のものづくりのビジネスモデルそのものも大きく変わりつつあることに気付くだろう。そうした潮流にも追い付き、自社が追随・導入し得る技術については理解・検証しておく必要もある。最後に、スマートなものづくりの3つの潮流について解説をしておこう。

〔潮流1〕3Dプリンターによる作り方とビジネスモデルの改革
 3DプリンターをはじめとするAdditive Manufacturing技術が登場してからしばらくたつ。当初は試作品でしか使えないといわれていた時代からははるかに進化して量産品にも使われている。実際、今では3Dプリンターを物流が不便な遠隔地に置いておき、スペアパーツを物理的に送るのでなく、3DCADのデータで送って現地で物理出力することで物流や在庫を無くす取り組みも行われている。

 また、部品点数を劇的に減少させ、組立プロセスを激減させる例も多く聞く。生物の進化の過程で培った駆体強度や構造のデータベースからAIが自動的に設計するGenerative Designと併せて複雑なデザインを伴う設計を自動化する例も始まっている。

 こうした延長にはものづくりそのものが仮想化するといった仮説も見え隠れする。

〔潮流2〕AIが素材からビジネスを創造するものづくりへ
 材料や素材にさかのぼって新たなものづくりに挑戦する向きも出始めている。素材の分子構成などをAIで探索していき、要求される特性に合致する素材を新たに開発するようなMaterial Informaticsといった取り組みも始まっている。

 そこから生まれた耐久性が高く、これまでになかったような素材を使って自動車や航空宇宙産業に応用される例も出始めている。通常、人間が研究した延長では多大な時間がかかる新たな素材作りやものづくりが、AIによって人間が行うよりも短期間でビジネスレベルまで実現できるようになっている。今後はAIがビジネスを創るといっても過言ではない。

〔潮流3〕「ものづくり」から「ものづくりを創るビジネス」へ
 このように、ものづくりはもはや、かつて自らをもって規定していた「物理的な製品を製造する」ビジネスの範疇を超え始めており、そのことに気付いていないと自分たちのビジネス領域を狭めてしまうことが容易に存在する。

 物理的な製品を製造することのほか、それを通じて培ったノウハウを、デジタル技術を使って横展開可能なソリューションに昇華させてものづくりをする企業を支援したり、ものづくりを新たに創造するビジネスを創る発想があっても良いわけだ。

 今後はより一層、そうしたレベルを模索する動きも活発になってくるだろう。日本のものづくりにはそうした明るい将来をも見据えた現場レベルの取り組みをぜひ加速させていってほしいと願っている。

 次回からは、注目のテクノロジーとともに、ものづくり産業のDXについて、さらに解説をしていく。