手ぶらで買い物に出掛け、買いたいものをスマホで注文・決済すると、その日のうちに宅配される――。中国では数年前からEC通販の利便性と実店舗での実体験を融合させた「ニューリテール」と呼ばれる小売革命が進んでいた。ECで培ったノウハウを生かして生産、流通、販売のプロセスにイノベーションを起こし、オンラインとオフラインの融合をベースとした新しい消費スタイルを提供する試みである。
近年、この「ニューリテール」の取り組みがさらに進化し、新たな消費ブランドの誕生を促している。その背景と成長要因を探るため、今回は中国の消費分野の動向を中心にデジタル化の進展がもたらす新興ブランドの成長を取り上げる。
背景は愛国消費主義と国産品ブーム
中国では近年、「国貨・国潮」ブームが起きている。通信機器大手メーカーのファーウェイに対する米国の制裁が始まってから、中国人はファーウェイの製品をより買うようになったように、中国企業を応援したいとの気持ちで「国貨(国産品)」を買う「愛国消費」の機運が高まっている。
「国潮」とは中国の伝統的文化・デザインを製品・サービスに取り入れる潮流のことである。その典型的な事例は、故宮のブランドと文化価値を最大限に生かした商品開発である。故宮関連グッズだけでなく、口紅などの化粧品をはじめ、さまざまな商品が故宮とのコラボレーションで、商品に新たな魅力を加えているという。
この「国貨・国潮」ブームをけん引しているのが、いわゆるデジタルネイティブとも呼ばれる「Z世代」である。比較的豊かな環境で育てられ、中国の経済発展に自信をもち、中国への誇りや中国文化の価値を強く認識している世代である。Z世代はブランド価値と自分の価値観との一致を最も意識しているとみられるため、海外のブランド品だから買うということはしない。
実はZ世代に限った変化ではない。経済発展や生活水準の向上に伴い、多くの中国人消費者が成熟しつつあり、商品の見栄えの良さだけでは飽き足らず、機能や品質を重視する消費傾向が顕著になっている。また、消費体験などを重視してサービスや商品を選択するという消費行動も盛んである。こういう消費者側の変化と「国貨・国潮」ブームが相まって、中国の新しい消費ブランドを育成する“土壌”となっている。
新消費ブランドの台頭を支えるデジタル手法
ここ数十年、中国企業のブランド意識が高まっている。「世界ブランドバリューランキング500(2022年)」に中国企業が84社ランクインし、ブランドバリューもブランドの数も第2位に占めるようになっている。上位25社の中では、ファーウェイや国民的なSNSアプリ「微信(ウィーチャット)」、動画配信アプリの「抖音(ティックトック)」、EC最大手アリババ傘下のプラットフォーム「淘宝(タオバオ」)と「天猫(Tモール)」など、中国民営企業の製品・サービスの名を連ねる。
一方では、ここ数年、前述したテック系の製品やデジタル関連のサービス以外の化粧品や飲食関連の分野でも、新しいブランドが続々と誕生し、急成長している。投資関係者やビジネス業界では「中国ではあらゆる分野で新消費ブランドの創出が可能」が共通認識になっているようだ。