観光業界は大きな打撃を受け続けている。驚異的な成長を続けてきた星野リゾートも例外ではないはずだ。しかし、行動制限があったここ数年においても、独自の発想から次々と施策を打ち出し、新たな需要の創出に成功している。そこには、社会問題の解決に通じる新たな観光業の可能性や課題が垣間見えた。同社代表星野佳路氏は近年をどうとらえ、未来をどう見据えているのかを聞いた。
旅は「不要不急」ではなく現代人に必要な要素
コロナ禍で観光産業全体が影響を受ける中で、星野氏は幾つもの発見があったと話す。
その一つが、「旅は現代人になくてはならない」という気付きだ。政府からの要請が出ている最中は激減するものの、感染が収まるとともに、旅行者は勢いよく戻ってくる。これは、想像以上に“旅は人々の人生の一部”として確立した役割があり、不要不急とは真逆という結果を意味した。旅の効能には、ストレス解消や非日常体験、家族とのコミュニケーションなどが挙げられるが、人生を彩る行事として日常生活の中にしっかり根を下ろしている。特に精神的な閉塞感が大きいコロナ禍での旅の役割は、衣食住に匹敵するくらい大切な要素として認識されていると星野氏は感じたという。
もう一つの発見は、「遠くへ行かなくても旅の効能は変わらない」ということだった。星野リゾートはかねてより「マイクロツーリズム」を推奨していた。これは、地元の人が近場で過ごす旅で、3密回避が提唱されていた昨今と相性がとても良い。実際に、普段は海外ばかり行っていた人たちが、”仕方なく“訪れた旅館やリゾートに魅了された例が数多くみられた。このコロナ禍でマイクロツーリズムの需要の多さと大切さを改めて実感したという。
「自宅から車で1~2時間で来られるお客さまに何度も利用していただき、“海外へ行くのと変わらない楽しみがある。日本の旅館やリゾートも良くなったんだね”というお声を数多くいただきました。そこには、通常時の旅行と変わらない旅の効能がある。わざわざ海外まで行く必要が無かったのです。お客さまはこのコロナ禍で、日本の観光を見直し、新たな魅力を発見したのではないかと私は感じています」(星野氏)
同社が長年、マイクロツーリズムに注力してきた理由は、発祥の地「軽井沢」にあった。オフシーズンに足を運んでいただくために、1990年代からさまざまな工夫をしてきたのだ。