(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
生産統計からロシアのモノ不足を検証する
ロシアがウクライナに侵攻したのは、今年の2月24日のことだった。事態を重く見た欧米を中心とする主要国は、ロシアに対する経済・金融制裁を矢継ぎ早に強化した。
象徴的な制裁の一つに、ロシアの主要な銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除したことがある。ロシアの貿易決済を困難にし、貿易を停滞させることがその狙いだった。
ロシアの貿易収支は黒字だが、その大部分を計上するのは石油やガスの輸出だ。つまりロシアは石油やガスを輸出し、その稼ぎでそれ以外のモノを輸入する経済である。
実際、ロシアの製造業は部品を自国で製造する能力が低く、輸入に頼っていたため、ロシアで完成品を作ろうとすると、多くの部品や中間財、資本財を輸入する必要があった。
そうした部品や中間財などを、ロシアは主にヨーロッパから輸入していた。そのヨーロッパとの間で貿易決済が困難になれば、ロシアは国内で完成品を生産するために必要な部品や中間財などを輸入できなくなる。その結果、ロシアはモノ不足に陥り、それがロシアの経済の体力を削ぎ、戦争の持続を困難にする──。これが欧米の狙いだった。
ロシアにとっても、製造業の中間財や資本財の輸入依存度をどう低下させていくかは長年の課題だ。安全保障上の観点からであるが、これまでの取り組みが特筆するような成果を上げてきたわけではない。
ロシアは今年1月分を最後に通関統計の公表を止めているが、その意図の一つは、モノ不足の程度を把握されないように隠すことにあったのだろう。
一方で、ロシアは製造業の生産統計を公表し続けている。本来なら国内のモノ不足は総供給(国内生産分+輸入分)で把握する必要があるが、国内生産分に相当する製造業の生産統計の動きにも、実際に大きな変化が生じていることから、製造業の生産統計を用いてロシアがどの程度のモノ不足に陥っているのかを推察してみたい。