この中で、TSMCにおける中国南京工場の割合は同社の10%にも満たないが、サムスン電子の西安工場で生産する3次元NANDは同社の約40%を占める。また、SKハイニックスの大連工場で生産する3次元NANDは同社の約30%、無錫工場で生産するDRAMは同社の約50%を占める。

 もし、サムスン電子とSKハイニックスがCHIPS法による補助金を受け取ってしまうと、中国にあるメモリ工場に先端投資も増産投資もできなくなる。半導体メモリは、2年で一世代先端に進むことにより競争力を維持している。そのため、メモリメーカーに「投資するな」というのは、「死ね」と言われるに等しい。従って、これら韓国メーカーは、中国から撤退することも検討せざるを得ない状況に陥った。

米国による中国への規制「2022・10・7」

 じゃあ、米国への進出を諦めて、CHIPS法による補助金を受け取らなければ良いのではないか、と思い始めた矢先、米国が中国に対して2022年10月7日、これまでとは次元の異なる厳しい輸出規制「2022・10・7」を発表した。

 この規制によれば、中国にある先端半導体工場へは、米国の製造装置を一切輸出できなくなる。また、装置のメンテナンスに使う部品も輸出できない。さらに、米国人が中国の先端半導体工場に関わることを禁止されたため、幹部、研究者はもちろん、装置のメンテナンスを行うフィールドエンジニアも撤退することになった。

 ここで、先端半導体とは、16/14nm以降のロジック半導体、18nm以降のDRAM、128層以上の3次元NANDと定義されている。これに該当する中国の半導体メーカーには、ファウンドリのSMIC、DRAMのCXMT、3次元NANDのYMTCの3社がある。加えて、TSMCの南京工場、サムスン電子の西安工場、SKハイニックスの大連工場と無錫工場などの外国企業も該当することになった。

 これら先端半導体メーカーに対しては、米国の装置メーカーのアプライドマテリアルズ(AMAT)、ラムリサーチ(Lam)、KLAの装置の輸出が禁止される。また、オランダと日本も追随することになり、ASMLの露光装置(EUVだけでなくArF液浸も)、東京エレクトロンのコータ・デベロッパなども輸出禁止になる見込みである(図10)。

図10 各種の前工程装置の企業別シェア(2021年)
出所:野村証券のデータを基に筆者作成
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