CHIPS法に盛り込まれた半導体メーカーへの補助金
2022年8月9日、米バイデン大統領が半導体の国内製造を促進する法律「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)に署名し、同法が成立した。CHIPS法には、米国の半導体製造や研究開発への527億米ドルの補助金などが盛り込まれている。この補助金を受け取る対象となっている主な半導体メーカーを図9に示す。

出所:SIA;“The CHIPS Act Has Already Sparked $200 Billion in Private Investments for U.S. Semiconductor Production”(Dec 14, 2022)等を基に筆者作成
米インテルは、アリゾナ州とオハイオ州に、それぞれ200億~300億米ドルを投資して、プロセッサ工場とファウンドリを建設する。米国政府に招致された台湾TSMCは、当初アリゾナ州に120億米ドルを投じて月産2万枚の5nmのファウンドリを建設する予定だったが、その後、5nmではなくその改良版の4nmを量産することに変更するとともに、3nmの第2工場も建設することになった。月産キャパシテイは5.5万枚となり、投資額は3.3倍の400億米ドルに増額される。
一方、ファウンドリ分野でTSMCに追い付きたいと目論むサムスン電子は、テキサス州に170億米ドルを投じて3nmのファウンドリを建設する。また、SKハイニックスを含むSKグループは、半導体のR&Dセンターや先端パッケージなどに合計220億米ドル投資する計画である。
インテルなどの発表によれば、100億米ドルにつき30億米ドル分を補助金で賄うことができるという。従って、これらの半導体メーカーは、何としてもCHIPS法による補助金が欲しいわけである。
後出しじゃんけんで出てきた『ガードレール』
ところが一つ大きな問題が浮上した。それは、CHIPS法と同時に、「CHIPS法は、コストを削減し、雇用を創出し、サプライチェーンを強化し、中国に対抗する」と題したファクトシートが発表され、それには強力な『ガードレール』がついていることが明らかになったことにある。
その『ガードレール』では、米国半導体産業の競争力を保護することを確実にするため、「補助金を受ける企業はその後10年間、中国の最先端のチップ製造施設(28nm以降)に投資/拡張することを禁じている」のである。
この『ガードレール』によって、中国南京工場で40~16nmのロジック半導体を生産しているTSMC、中国西安工場で3次元NANDを生産しているサムスン電子、中国無錫(むしゃく)工場でDRAMを生産し、インテルから買収した中国大連工場で3次元NANDを生産しているSKハイニックスは、CHIPS法に基づいて補助金を受け取った場合、向こう10年間、上記の中国工場に一切の投資ができなくなる(1年間の猶予を与えられたが、本質的な解決策にはならない)。