2001年当時とは違う米国政治
しかし、今回の一件は悲観的に見ることもできる。
2001年の衝突で、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領がEP3の乗組員を解放させるために中国軍パイロットの死去について遺憾の意を表明した際には、連邦議会は不満を漏らすだけだった。
今日のワシントンでは、党派的な怒りはそれほど抑制されないだろう。
共和党が気球をすぐに破壊するようジョー・バイデン大統領に求めるなか、中国政府は2月上旬に出した独善的な声明文で、大統領に加わる政治的な圧力を考慮していなかった。
それどころか、最終的に気球が撃墜されるとおおっぴらに抗議した。おまけに、米国は事件を「でっち上げた」と非難した。
あたかも、戸建て住宅ほどの大きさで地上からでも見ることのできる敵国の風船を自由社会が隠蔽できるだろうと言わんばかりだった。
鼻持ちならないメッセージの代償
中国のメッセージ発信の鈍感な不快さには代償が伴う。
気球が米国本土を横断している最中に、アントニー・ブリンケン米国務長官が2月5~6日に予定していた中国訪問を延期した。
バイデン氏とその側近が、ブリンケン氏が習近平国家主席やそのほかの政府幹部と行いたいと思っていた率直な話し合いに集中できる政治状況ではないと判断したと言われている。
対話の狙いは、二国間の緊張を緩和したいとしている中国の本気度を試すことと、米中関係にささった最も鋭いトゲに対するバイデン氏の見方を習氏の耳に直接入れることにあった。
ここで言うトゲとは、米国の台湾支援、軍事利用できる先端技術への中国のアクセスを制限しようとするバイデン政権の取り組み、ウクライナで戦うロシアへの中国からの支援などを指す。
米国務長官の訪中の意図
かつてオバマ政権で国務次官補とアジア問題のアドバイザーを務め、現在はアジア協会政策研究所に籍を置くダニエル・ラッセル氏は、ブリンケン氏の訪中は両陣営が「行儀よくプレー」できる政策分野を提案する「ボーイスカウト」的な訪問を意図したわけではなかったと語る。
本当の目的は、緊張をじわじわと高めがちな中国の振る舞いが何であるかを詳細に説明し、緊張を逆に低下させるような行動を提案することだったという。
ラッセル氏によれば、米中は「海図のない」領域に入っており、かみ合わないことが多い両国の目標や世界観と深い経済統合とのバランスを取りつつ、新たな均衡を求めて手探りで進んでいる。
ブリンケン氏の訪中は「冗談なしに、習氏に米国の方針を丁寧に教えるためのものだった。自分の部下から歪んだ解釈が上がってきているかもしれないからだ」。
この訪中の日程が近いうちに再調整されることをラッセル氏は望んでいる。