(英エコノミスト誌 2023年2月4日号)

東京オートサロンに出品されたBYDの「SEAL」(1月13日幕張メッセ、写真:ロイター/アフロ)

BYDは「電気自動車のトヨタ」だ。

 トヨタ自動車の豊田章男社長が1月26日、自動車製造世界最大手のキーをナンバー2の佐藤恒治氏に譲ると発表した。

 その理由を知りたければ、トヨタが初めて作った「レクサス」の電気自動車(EV)にこの2人が試乗している2021年のシュールな動画を見るといい。

 ハンドルは豊田氏が握っている。初めのうちは、EVのことを少し疑っている様子が見て取れる。

 運転しているときの感じがちょっと重いという感想を口にする。そしてアクセルを踏み込み、車が一気に加速すると、映画トップガンの興奮しきったパイロットのように歓喜の声を上げる。

 気恥ずかしくなる動画だが、的を射ている。

 トヨタは多くの人からEVで出遅れていると思われている。会長に就く豊田氏は、13歳年下の佐藤氏に社長の座を譲る決断を発表することにより、EV時代への移行を新しい世代が加速させるときが来たことを明確にしたのだ。

テスラ独走の終わり

 豊田氏の動きを取り上げたメディアの大半は、これをテスラへの対応だと評している。それはあまりにも西洋中心的な見方だ。

 テスラは世界最大のEVメーカーかもしれないし、経営者のイーロン・マスク氏の言を借りれば、望遠鏡を使っても2番手以降の姿が見えないほどライバルを大きく引き離しているかもしれない。

 だが、この見方は、マスク氏の大言壮語にもかかわらず、トヨタが間違いなくテスラと同程度に重視している新興の中国企業を無視している。

 その企業は、純粋なEVの販売台数で世界最大手メーカーとして今年テスラを抜き去るかもしれない比亜迪(BYD)だ。

(純粋なEVには、BYDが生産するハイブリッド車を含めない)

 BYDは中国におけるトヨタのEVパートナーであり、世界的に台頭するライバル企業でもある。

 それ以上に重要なことに、BYDはトヨタが数十年にわたって世界で最も成功した自動車会社であり続けている秘訣の多くを見習っている。