(英エコノミスト誌 2023年1月28日号)

米国債のデフォルトでドル大暴落・・・考えたくないがあり得ないことではない

米国のデフォルトは考えられないことだが、デフォルトを回避する「その場しのぎの打開策」はそれ自体が危険をもたらす。

 チキンゲームの賭け金が兆ドル単位になることはほとんどない。

 米国は、連邦議会の共和党議員たちが政府の債務上限をめぐって民主党の大統領とやり合うときに、その例外となる。


 財務省が発行できる債務に設けられたこの法的な上限は定期的に引き上げられてきた。だが、行き詰まりの再発を未然に防げるほど大きく引き上げられたことはない。

 上限引き上げについて超党派での政治合意ができなければ、米国は危険な領域に足を踏み入れることになる。

 下手をすれば、無意味なデフォルト(債務不履行)に陥りかねない。

Xデーまでの時間稼ぎ

 ジャネット・イエレン財務長官は1月19日、米国の債務が上限(31兆3810億ドル)に達したこと、そして現金節約のために年金基金の投資を延期するといった「異例の措置」を講じ始めたことを明らかにした。

 これらは災難が実際に始まる「Xデー」まで時間を稼ぐ会計上の工夫であり、今ではお決まりの措置となっている。

 前回、危機一髪の事態となったのは、バラク・オバマ氏が大統領、ジョー・バイデン氏が副大統領だった2011年で、Xデーまで数日の猶予しかないギリギリのタイミングで解決にこぎ着けた。

 その間、株式市場は肝を冷やし、ある格付け会社は米国債の格付けを引き下げた。

 2023年に持ち上がった難局も、当時と同じくらい劇的なものになる恐れが十分にある。

議会共和党vsホワイトハウス

 議会下院で新たに多数派になった共和党は、止めどなく膨らむ財政支出は看過できない、抑制しなければならないと主張している。この深い懸念は不規則に唱えられるものだ。

 ドナルド・トランプ氏が大統領だったときには、債務上限が共和党の支持を得て3度引き上げられ、同氏の任期中に国家債務の残高が8兆ドル増加した。

(このうち3兆2000億ドルは、新型コロナウイルス対策の支出が2020年に始まる前の増加分だ)

 これらの引き上げは特にもめることなく認められ、ホワイトハウスは今回もすんなり引き上げられることを望んでいる。

「債務上限の引き上げは交渉事ではない。経済の混乱を回避することは、この国とその指導者の義務だ」

 バイデン政権の報道官は1月20日公表のプレスリリースでそう述べた。