(英エコノミスト誌 2023年1月14日号)
米国が補助金、輸出規制、保護主義へと向かう世界の危険な流れを先導している。
世界経済は1945年以降、米国が裏書きした規則と規範のシステムに従って運営されてきた。
そのおかげで経済統合がかつてないほどに進展し、経済成長率を押し上げ、何億人もの人を貧困から救い出し、西側が冷戦でソビエト連邦に勝利するのを手助けした。
そのシステムが今、危機に瀕している。
各国が先を争うように「緑の産業」(持続可能な経済成長に寄与する産業・企業)に補助金を拠出し、敵味方を問わずに外国から製造業を誘致し、モノとカネの移動を制限している。
互恵はもはや時代遅れとなり、自国の利益の追求が当世風だ。
ゼロサム思考の時代が始まった。
戦後世界を支えてきたシステムの歪み
従来のシステムはすでにストレスにさらされていた。2007~09年の世界金融危機を経て、米国がシステム管理への関心を失ったためだ。
だが、ジョー・バイデン大統領が自由市場のルールをかなぐり捨てて積極的な産業政策を取ったことが新たな一撃となった。
米国が打ち出した補助金は巨額で、グリーンエネルギー、電気自動車、半導体などに拠出する合計額は4650億ドルにのぼる。
これらはすべて、生産を米国内で行うという条件付きだ。
また、外国が国内経済に不適切な影響力を及ぼすのを防ぐために、外国から米国内への投資案件は官僚が厳しくチェックすることになっている。
その影響は広範囲に及んでおり、株式市場の時価総額における割合で言うなら60%に達している。
輸出規制もますます強化されている。最先端の半導体や半導体製造装置の中国向け輸出はその典型だ。