無差別とも言えるロシアのミサイル攻撃で1月15日、ウクライナ南部の都市ドニプロでは集合住宅が被弾、多くの一般市民が犠牲になった(写真:AP/アフロ)

 ロシアの対ウクライナ「特殊軍事作戦」が始まってから2月で1年が経つ。

 日本の大手各紙がこの年頭の社説で挙ってロシア・ウクライナ紛争を取り上げると、米ユーラシア・グループも早々と恒例の「今年の10大リスク」予想を発表し、その一番手に世界の安全保障への脅威となる「ならず者のロシア(Rogue Russia)」を据えた(1)。

 どうやら2023年も昨年と同じく、ロシアの対外紛争が国際社会の最重要問題であり続けるようだ。

 いつ、どのような結果でこの紛争に終止符が打たれるのか、その見通しは相変わらず立っていない――と毎度同じ台詞を繰り返すことになる。

 結果がどう出るのかは戦況次第、という構図が変わっていないからだ。それを踏まえた上で、本稿ではこの紛争の現状と若干の展望について改めて触れることにしたい。

戦況

 2022年秋にロシア軍が東部ハリコフ州と南部ヘルソンから退いた際には、ロシア敗北論らしきが一挙に盛り上がった。

 予想外に弱く組織体としてまともに機能しないロシア軍と、欧米からの支援(兵器供給、兵士の訓練、資金と諸軍事情報の提供)を受けて能力を増したウクライナ軍とでは、もはや勝敗の帰趨は明らかといった見方が強まった。

 ロシアの敗北とそれを基にした戦後処理への期待値が膨らんだ。

 だが、ロシア敗北の予想は時期尚早、とする慎重論も少数ながら一部に出ていた。その後の戦況の膠着状態は、こうした慎重論が正しかったようにも見える。

 これからについては、2023年も一進一退がズルズルと続くままに、とする予想が出る一方で、早ければ年が明けたこの冬か、遅くとも春先にロシアが、あるいはロシア・ウクライナ双方が一大攻勢を始めるといった想定や憶測も飛び交う。

 1月11日にロシア国防省は、新たに対ウクライナ軍事作戦での総司令官を参謀総長・V.ゲラシモフに委ねると発表した。

 前任のS.スロヴィキン(ゲラシモフの副官となり肩書では降格だが、現場の指揮は引き続き任される模様)が戦局挽回で期待通りの成果を出せなかったことや、ロシアの正規軍と私兵軍団との対立問題解消に迫られたことがその理由だと西側では報じられている。

 総司令官の権限範囲がかなり拡大された可能性に露紙が言及すると、ロシアが大攻勢を仕掛けるための措置なのでは、という憶測も出る。

 ゲラシモフに至るまで、ロシアは軍事作戦に関与するトップを始めとする指揮官の首を頻繁に挿げ替えてきた。

 物事がうまくいっているなら組織の人事を大きく弄る必要はないから、作戦遂行が不調だと見るしかない。

 ロシアの軍事面での限界は多々報じられており、それが西側の一方的な推測であろうと、それらへの有効な反論がない限り、大攻勢に踏み込んだとしてもその成功には疑念が付き纏う。

 もし、その試みで失敗したなら、クリミアを含めた全占領地からロシアを追い出せ、というウクライナ政権側の強気は止まらなくなる。

 援助する欧米諸国も「あと少しだ」の気になり、停戦交渉の時期は遠のいてしまう。

 このケースで停戦が現実化するとすれば、ロシアが核兵器を使う公算が急激に高まり、西側諸国も事態の収拾に動かざるを得なくなった時だけだろう。

 しかし、もしロシアがこれまでの汚名返上を図れたなら、ウクライナ政権はともかく、欧米諸国は、さらにどれだけウクライナへの援助を続けるのか、続けられるのか、ロシアを完全に押し返すために欧米諸国の兵を送り込むか、あるいはウクライナに停戦協定を一時的にでもロシアと結ばせるのか、の判断と選択を迫られていく。