(英エコノミスト誌 2023年2月4日号)

イスラエルのハイファ港買収完了セレモニーに参加したゴータム・アダニ氏(左、右はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、1月31日、写真:ロイター/アフロ)

空売り筋による攻撃の最初の犠牲は25億ドルの公募増資計画だ。

 インド実業界の大物ゴータム・アダニ氏は待ち伏せ攻撃を何度か経験している。

 1998年には誘拐され、伝えられるところによれば数百万ドルの身代金を払って解放された。2008年にムンバイで同時テロが発生した際には現場のタージマハル・ホテルにおり、地下に隠れて一夜を明かした。

 そのアダニ氏が、今度は違う種類の攻撃に直面している。

 自分自身ではなく、自分の名前を冠したコングロマリット(複合企業)が襲われているのだ。

1週間で時価総額がほぼ半減

 アダニ・グループの上場企業10社の市場時価総額の合計はわずか1週間で半分近くに縮小し、額にして1080億ドルもの価値が吹き飛んだ(図1参照)。

図1(上)と図2(下)

 これらの企業の社債も一部売り込まれ、利回りが破綻企業並みの水準に急上昇する場面もあった(図2参照)。

 年初には世界で3番目に大きかったアダニ氏の個人資産も500億ドル以上縮小した。

 グループの中核企業であるアダニ・エンタープライゼズによる25億ドルの公募増資は、2月1日に突如撤回された。

 本誌エコノミストが印刷に回る2月2日時点でまだ続いていた騒ぎは、インド最強クラスの企業集団、クリーンエネルギーからメディアに至るあらゆる分野での巨大な野望の行方、そして大物実業家が牽引するインドの資本主義に対して疑問を投げかける。