日本銀行・新総裁の肩の荷は重い

 植田和男氏が次の日銀総裁に内定した。天の配剤としか言いようがない。

 従来型の銀行システムの管理を中心とした日銀の金融政策では、これから予想される米国を中心とした世界市場の暴落、そこから発生する日本国民の資産と経済、そして金融システムへの影響を制御できない。

 従来の日銀の管理下にはなかった、総資産200兆円近い民間国民資金を運用するGPIF(厚生労働省管理)などの年金基金、総務省管轄下の300兆円の郵政資金、150兆円の農協系資金、多くの政府ファンドなど、巨額の国民資金を運用する「国民資産運用機関」までを日銀の政策対象にしなければ、これからの日本経済の危機管理はできない。

 戦前、1929年の米国から発生した株式大暴落は世界大恐慌に発展した。

 植民地や資源を持つ米英仏と持たない日独伊が経済政策において対立し、日独伊では軍事政権の台頭を招き、第2次世界大戦に突入して、人類史上最大の人命と財産の損失をもたらした。

 戦前の世界大恐慌を学者として分析し、米国の金融政策を司るFRB(連邦準備制度理事会)議長に就任してリーマンショックが世界大恐慌になるのを防ぎ、2022年その研究と実践の功績によりノーベル経済学賞を受賞したのがベン・バーナンキ氏だ。

 植田新総裁にはバーナンキ氏に匹敵する今後の活躍を期待したい。

 植田氏に期待する理由は、8年にわたり日銀審議委員として日銀業務に精通しているだけでなく、日銀の政策スコープ外にあるが正負双方の結果が経済と金融に巨大な影響を及ぼす日本の国民資産の運用、とりわけ、世界最大の年金基金であるGPIFの資産運用に精通しているからだ。

 2009年に、総務省顧問として、私は自らがその発足に深く関わったGPIFの資産運用のあり方に抜本的な改革が必要だとして「公的年金の運用あり方検討会」の発足を総務大臣に提言して、検討会が発足した。

 その時に検討会の委員長として植田氏を推薦し、東京大学の植田研究室を訪問して趣旨を説明して快くお引き受けいただいた。