Aさんは日常的に翻墻を駆使し、世界の情報に接している。今回のAさんへのインタビューも翻墻を介し、中国共産党が許可していない通信アプリを利用して実現した。彼によると、抗議運動の現場に向かった多くの友人が日常的に翻墻を利用しているという。

 米紙「ニューヨーク・タイムズ」の華人記者・袁莉は、彼女の個人的な音声コンテンツサイト「不明白播客」において、白紙運動に参加した上海の若者6人にインタビューをした。1人は留学経験があり、その他4人はそれぞれ翻墻を介して利用可能なアプリを使っているという。つまり、6人中5人は中国共産党の洗脳の網をかいくぐり、世界の情報を入手している。

 北京の白紙運動において人々が叫んだスローガンは、以前、北京の橋の上に掲げられた横断幕にあった言葉だった(詳細は本コラム「市民のスマホを抜き打ち検査の異常事態、『白紙運動』拡大にピリつく中国当局」を参照)。このスローガンは、中国では完全にタブー扱いされ遮断されており、翻墻を使わなければ、人々がこのスローガンを知ることは不可能だ。

 私は何年も前から、翻墻で中国国外の情報を得て中国共産党支持から民主主義支持へと政治見解が変わった友人を数多く見てきた。逆に、民主主義支持から共産党支持に変わった人は見たことがない(自分の利益のために嘘をついている者を除いて)。

 情報で人は変わる。これは、疑いようもない事実である。

 これまで私が知り得た状況から見て、白紙運動の参加者の大部分が、中国のネット検閲を突破した「翻墻者」である。これは白紙運動の大きな特徴の1つであると言えるだろう。