Aさん「スローガンを叫ぶだけでなく、一部の人は自分の考えをスピーチし始めました。群衆に向かって、『資本主義は悪だ。中国が抱える多くの問題はすべて資本家のせいだ』と言い出す若者もいたりして(笑)。勇気があると思いますが、考えは単純です」

──そうですね。ここ数年、中国共産党政府は民間企業に圧力をかけ、社会問題の諸悪の根源は資本主義にあると唱えていますね(筆者注:中国共産党の教育において、資本主義は邪悪であるとされている。筆者が教育を受けていた1990年代頃はそのような教えは薄れていったが、近年、再度提唱され始めている)。

Aさん「あと印象深かったのは、女性は男性よりも勇敢だということです。ある女性は私の隣で直接警察官に向かって『政府は吸血鬼だ!』と叫んでいました。他にも、大胆なことを叫んでいる女性が多くいました」

──成都だけでなく、上海や北京でも先頭を切ってスローガンを叫ぶのは女性が多かったようですね。

Aさん「男性は、いろいろ考えてしまい躊躇することが多いのでしょう。それから、このように警察に叫んでも何も意味がないと考えている人もいます。しかし、女性は小さいことは顧みず、感性に従い、直接言いたいことを言えているのでしょうね」

なぜ警察は完全にデモを阻止しなかったのか

──先ほど、警察は片目を開けて片目は閉じているような状態だったと言いましたが、人が多く集まり抗議運動が展開される様子を黙認したのはなぜだと思いますか?

Aさん「成都の現地政府はこの抗議運動を完全に阻止することができたはずです。抗議運動の現場を封鎖するなんて、彼らにとっては朝飯前です。しかし、それをしなかった。それは、彼らも抗議運動が発生することを望んでいたからだと思います。現地政府は、とっくにゼロコロナ政策に耐えられなくなっていました。私の同級生で、政府の財政管理に携わる役人がいますが、全市民に対する無料のPCR検査で財政予算の半分以上を消費したと言っていました。現地政府はすでにお金がないのですよ」

──私の友人は、以前はあまり中国共産党批判を口にしなかったのですが、最近になって憤慨していました。「習近平がまさか続投するとは思っていなかった。まるで皇帝のようになったことに失望し怒りが収まらない」と言います。抗議運動の背景には、こうした習近平体制への不満や怒りもあったのではないかと思いますが、いかがでしょう。